【最終年度の研究成果】 これまでPPM1L遺伝子ノックアウト(KO)細胞の解析からKO細胞の細胞培養ディッシュへの接着性が野生株と比較し亢進していること、およびこの表現型にインテグリン分子の発現亢進が関与していることを見出してきたが、そのメカニズムとしてSmad2のリン酸化の亢進が関与することを見出した。 【研究期間全体の研究成果】 酵母2HYBスクリーニングでPPM1Lと会合すると考えられる部位(ヒトSREBP1cの341-535残基)には、AMPKによりリン酸化され活性抑制に関与するSer残基(Ser372)と、GSK3 beta依存性にリン酸化され、タンパク質安定性に関与するThrおよびSer残基(Thr402およびSer406)が含まれている。通常、GSK3betaによるリン酸化には4残基C末側のSerまたはThr残基がリン酸化されることが必要であるが、これまでそれを担うプロテインキナーゼについては不明であった。今回、大腸菌で発現したSREBP1タンパク質を基質として検討したところ、SREBP1cにおいては、DYRK2がGSK3beta依存性リン酸化に必要なC末側のリン酸化を担っていることが明らかとなった。PPM1Lは以上の方法で調製したSREBP1cのリン酸化部位をin vitroで効率良く脱リン酸化することができた。 PPM1Lの細胞における機能を明らかにする一端として、ノックアウト(KO)培養細胞株を作製し、遺伝子破壊の影響を検討した。その結果、HEK293 KO細胞株の培養ディッシュへの接着性が野生株と比較して亢進していることを見出した。WB法にて細胞と細胞外マトリックスの結合に関わる接着因子であるインテグリンの発現を調べたところ、KO細胞において複数のインテグリン分子の発現が亢進していることが明らかとなった。この発現上昇はKO細胞にPPM1Lを発現させると消失した。TGFβ依存性のSmad2のリン酸化がKO細胞で亢進し、PPM1Lタンパクの強制発現でその亢進が抑制されたことから、そのメカニズムとしてSmad2径路の活性化が関与することが示唆された。
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