研究課題
膵β細胞のグルコース応答性インスリン分泌(GIIS, glucose-induced insulin secretion)には、グルコース代謝と連動した電位依存性カルシウムチャネル(VDCC, voltage-dependent calcium channel)を介した細胞内へのカルシウム流入が重要な役割を担う。一方、VDCCとは別に新たな経路として細胞内へのカルシウム流入を担うSOCE(store-operated calcium entry)が、近年、インスリン分泌制御に関与する可能性が示唆されるが、その生理学的意義や制御機構は不明である。本研究では、SOCEを制御する小胞体膜蛋白STIM(stromal interaction molecule)1及びSTIM2に注目し、検討を行ってきた。膵β細胞株であるMIN6を用いて、STIM1をノックダウンしてGIISの評価を行ったところ、予想に反してインスリン分泌に差を認めなかった。そこで次に脂肪酸によるGIISの増幅経路に着目した。膵β細胞における脂肪酸受容体GPR40のアゴニストとして報告されているfasiglifam(fas)を用いて、インスリン分泌とSTIM1の関係を検討した。MIN6を用いてSTIM1をノックダウンしたところ、fasによる細胞内カルシウムの増加は抑制された。またfasによるGIISの増強も抑制された。本検討は脂肪酸をリガンドしても再現された。次にCre/loxP系を用いて膵β細胞特異的にSTIM1の遺伝子を欠失したマウス(βSTIM1cKOマウス)を作出した。βSTIM1cKOマウスの単離膵島ではfasによるGIIS増強作用、細胞内Ca2+上昇作用は減弱した。経口ブドウ糖負荷試験でも、βSTIM1cKOではfasによる耐糖能の改善効果が有意に障害され、インスリン分泌増強効果も低下した。
2: おおむね順調に進展している
2019年度においては、膵β細胞におけるSTIM1およびSTIM2のin vivoでの機能解析を進め、Cre/loxP系を用いて膵β細胞特異的にSTIM1、STIM2の遺伝子を単独もしくは同時に欠失したマウス(βSTIM1cKO, βSTIM2cKO, βSTIM1/STIM2cKOマウス)を作出する予定であった。本来はSTIM1およびSTIM2の検討を同時に行う予定であったが、STIM1の検討結果が興味深く、STIM1の検討を優先して行うこととしたので、2020年度以降に行う予定であったインスリン分泌におけるSTIM1の機能のin vivo解析、つまりβSTIM1cKOの耐糖能評価を優先して行った。順序がやや異なるが、研究計画としてはおおむね順調に進展していると考えている。
膵β細胞株を用いた検討を、STIM2のノックダウンまたSTIM1/2のダブルノックダウンによって行おうと考えている。STIM1単独ノックダウンの効果も含めて、より詳細に検討するために、CRISPR/Cas9法を用いて、STIM1、STIM2を欠損したMIN6細胞の作成も行いたいと考えている。Cre/loxP系を用いて膵β細胞特異的にSTIM1、STIM2の遺伝子を単独もしくは同時に欠失したマウス(βSTIM1cKO, βSTIM2cKO, βSTIM1/STIM2cKOマウス)に関しては、主にβSTIM2cKOマウスとβSTIM1/STIM2cKOマウスの解析を進めていきたいと考えている。またob/obマウスなどの病態モデルにおけるSTIM1やSTIM2の発現変化についても検討を加えたいと考えている。
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Scientific Reports
巻: 9 ページ: 15562
10.1038/s41598-019-52048-1