研究実績の概要 |
インスリン受容体は、その細胞外ドメインが切断され可溶性インスリン受容体(soluble Insulin Receptor; sIR)として血中に存在し、糖尿病患者では血中のsIRが有意に増加している(Diabetes, 2007)。本事象を再現するin vitro系を構築し(BBRC, 2014)、インスリン受容体が切断される分子機構を明らかにするとともにインスリン受容体の切断がインスリン抵抗性の要因となることを示してきた。さらに、インスリンクランプ法を用いて血中sIR値が2型糖尿病患者のインスリン感受性と負に相関することを示し新たなインスリン抵抗性の病態モデルを提唱してきた(Diabetologia, 2016)。本研究ではin vitro系を用いてエストロゲン(エストラジオール)が培養液中sIRを増加させインスリン抵抗性を惹起していることを見出してきたが、最終年度にあたる本年度にはこの分子機構の詳細を明らかにした。すなわち、インスリン受容体はカルパイン2がエクソソーム系を介して細胞外に駆出されることにより切断されsIRを産生するとともに、連続的にγセクレターゼがインスリン受容体を切断しインスリン抵抗性を惹起するが、エストロゲンも同様の分子機構を共有しているとを明らかにした。一方で、エストロゲンはカルパイン2の遺伝子発現を促進していることも見出した。これは高血糖では認められない事象でありエストロゲンと高グルコースによる相乗的なインスリン受容体切断の要因となっていた。また、妊婦において血中sIR値がエストロゲン値と相関し妊娠経過に従い上昇することも見出した。以上の成果は、エストロゲンによりインスリン受容体切断が切断される分子機構の詳細を明らかにし、我々が提唱する「インスリン受容体2段階切断によるインスリン抵抗性病態モデル」を妊娠期のインスリン抵抗性に拡張することとなった。
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