研究課題
神経組織における炎症(Neuroinflammation)は多発性硬化症などの難治性神経疾患だけでなく、認知症やADHDなど幅広い神経機能障害の基盤病態として重要であることが明らかとなってきた。視床下部は経口摂取された栄養素そのものや、末梢の栄養状態を脳に伝達するホルモンの作用により、食欲や基礎代謝を調節するエネルギー代謝の中枢であり、視床下部における炎症が肥満や肥満に伴う代謝異常の原因であることが明らかとなりつつある。これまで肥満症の病態は、主にヒトを対象とする観察研究や、げっ歯類を対象とした薬理学的、分子遺伝学的研究により進められてきた。本研究では、肥満症の病因としての視床下部炎症を摂食調節ホルモンへの応答性を有するニューロン系細胞株とマイクログリア細胞株の相互作用に単純化して理解することで、われわれが注目する分子や薬剤が視床下部炎症に及ぼす影響を解析してきた。初年度である本年度は、特に脂質代謝制御に関わるPPARalphaやタンパク質・アミノ酸代謝制御に関わるSerpinA3がニューロン・マイクログリア間相互作用に及ぼす影響の解析を行い、視床下部炎症がこれら分子の機能を操作することで制御できる可能性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
レプチン応答性細胞株を用いた遺伝子操作やリコンビナントタンパク質添加実験、マイクログリア細胞株を用いた遺伝子操作やリコンビナントタンパク質添加実験の系を本研究に合わせて最適化し、分子機能の遺伝学的、薬理学的操作による効果を評価できる現状となっている。今後は本実験系を用いた機能解析をさらに進める予定である。
今後はこれまでに確立したin vitro実験系を用いて、以下の3つの研究を実施する。1)n-3多価不飽和脂肪酸やn-6多価不飽和脂肪酸がニューロンのレプチン応答性やマイクログリア活性に及ぼす影響の解析、2)脂肪酸による炎症惹起メカニズムの解析、3)食物由来脂質によるマイクログリア活性化メカニズムの解析、4)活性化マイクログリアによるレプチン応答性障害のメカニズムの解析。それぞれの培養細胞系を用いた検討に加え、Conditioned mediumを用いる検討や共培養系を用いた検討の実施も検討している。
年度の後半に使用を予定していた実験が、新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴う施設の立ち入り制限や注文品の納期延長によって実施できなくなってしまったため。これら検討には共培養系の条件検討などが含まれ、これらは2020年度中には実施予定としている。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (3件)
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