視床下部弓状核(ARC)に局在するニューロペプチドY(NPY)発現ニューロンは摂食を強力に促進する神経ペプチドである。そのため、NPY受容体のアンタゴニストは、抗肥満薬としての開発が進んでいる。本年度は、報酬系に関与する側坐核(NAc)にもNPYやNPY受容体タイプ1(NPY-Y1R)を発現するニューロンが多く存在することに着目し、側坐核のNPYやNPY-Y1Rが報酬である高脂肪食の摂取に関与するか否かを調べた。14日間にわたって高脂肪食を1日1時間マウスに供与すると、マウスは昼間にも関わらず1日の半分程のカロリーを摂取するようになった。このようなマウスに対し、NPY-Y1RのantagonistをNAcに投与したところ、vehicle投与時に比べ高脂肪食の摂食量が有意に減少した。一方、NPYを投与すると高脂肪食の摂食量は有意に増加した。昨年度までの研究により、逆行性に優れたアデノ随伴ウイルスをNPY-CreマウスのNAcに投与し、NAcに投射するNPYニューロンの起始部が神経核Xと神経核Yである事を明らかにした。そこで、神経核XからNAcに投射するNPYニューロンが高脂肪食の摂取に関与するか調べるために、神経核XからNAcに投射するNPYニューロンを活性化もしくは不活性化した時の高脂肪食摂取量を調べた。その結果、不活性化により摂食量が減少傾向にあることを明らかとなった。一方、NAcの存在するNPYニューロン自体が高脂肪食の摂取に関与するかをNPY-Creマウスを用いて調べたところ、NAc NPYニューロンの不活性化により高脂肪食の摂取量が減少した。さらに、高脂肪食を与えられたマウスでは側坐核を含む脳内の様々な部位でc-Fos発現が上昇することを見つけた。これらの事から、側坐核のNPYニューロンを中心とした神経回路が高脂肪食の摂取に関与する可能性が示唆された。
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