研究課題/領域番号 |
19K09036
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
八木橋 操六 東邦大学, 医学部, 教授(寄付講座) (40111231)
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研究分担者 |
水上 浩哉 弘前大学, 医学研究科, 教授 (00374819)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 2型糖尿病 / インスリン抵抗性 / 膵島神経 / 膵島血管 / 病理変化 |
研究実績の概要 |
近年2型糖尿病の膵島病理について研究の大幅な進展がみられている。膵島β細胞の減少と相対的なα細胞の増加が特徴的にみられ、そこではβからα細胞への形質転換や内分泌細胞の分化転換などが起こっている。しかしながら、その変化を引き起こす機序やそれに関わる因子はいまだ明らかではない。2型糖尿病発症にはインスリン抵抗性が重要な役割を担っている。しかし、インスリン抵抗性が膵島にいかなる病理学的変化をもたらすのかは明らかではない。本研究計画では、膵島微小環境としての膵島内自律神経支配および血管構築がインスリン抵抗性や2型糖尿病でいかに変化するかを明らかにするよう計画している。研究計画初年度では、2型糖尿病と非糖尿病との比較検討を第一に実施するよう計画した。すなわち、(1)年齢をほぼ一定にした2型糖尿病者、および非糖尿病健常者の膵島支配神経、血管構築について、組織定量的に検討した。その結果、糖尿病者での膵島血管の増加、壁肥厚を特徴的に認めた。神経支配の組織標本は十分でなく今後の検討を要した。(2)動物モデルでの検討では、自然発症2型糖尿病GKラットを用いその膵島変化、神経支配、血管変化について検討した。その結果、GKラットでは膵島内に分布する副交感神経線維の著明な減少をみた。今後は、インスリン抵抗性の関与をより詳細に検討する目的から、大血管障害(心筋梗塞)で死亡した2型糖尿病者、非糖尿病心筋梗塞死亡者の膵島を比較検討する予定である。また、高血圧自然発症ラット(SHR)にストレプトゾトシンを注射し糖尿病合併SHRを作成し、糖尿病のないSHRと膵島神経、血管について病理学的評価を試みる段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト糖尿病での膵島病理の検討では、標本の収集、非糖尿病者との比較検討などほぼ計画通り進行しており、血管構築についての所見がまとまりつつある。神経支配の検討では、免疫染色結果が抗体の力価によるためか一定の結果が得られず、さらなる検討を要している。一方、動物モデルでの検討では用いる動物の飼育状況、糖尿病ラットの作成に時間を要している。とくに、課題の一部にあげた糖尿病合併高血圧ラットの作成では妊娠した高血圧自然発症ラット(SHR)を購入し、新生児を得たのちストレプトゾシン注射による糖尿病発症を試みる必要がある。これらのラットを長期間飼育し、合併症の発症を評価する予定だが、予定通りの新生児を得られない場合もあり、実験を繰り返し実施している。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト糖尿病の膵島病理の検討では、膵島神経、血管の評価を免疫染色、蛍光染色で行っている。血管変化については今後も評価可能だが、神経変化については免疫染色の感度が低く十分な観察ができない例も多い。固定法などの改善も必要とされ、ある程度の限界を考慮した検討が必要とされる。 自然発症糖尿病GKラットを用いた膵島内神経変化、血管変化の検討では、副交感神経が主に膵島周辺で点状に分布するのをみる。血管分布はCD31の内皮細胞マーカー、周皮細胞マーカーとしてsmooth muscle actin(SMA)を用い、かつ交感神経線維マーカーとしてtyrosine hydroxylase (TH)を用いて検出した。健常ラットと糖尿病ラットとの差の検討を組織定量的に行う予定である。染色性が抗体によって変動するため、一定の評価まで複数の検討が必要とされる。一方、膵島内神経異常が治療によって予防あるいは修復可能であるか否か、現行の糖尿病治療で影響を受けるか否かについて、今後GKラットを用いて検討する予定にある。 ストレプトゾトシン注射による高血圧合併糖尿病ラットでは、血管変化とともに膵島内分泌細胞変化について、ある程度のラット匹数を確保して進めていく予定である。またストレプトゾトシン注射ラットでは長期観察で腫瘍発生頻度が高く、十分な個体数を得るのが難しい可能性も高い。腫瘍発生頻度が高い場合、短期間の実験に変更する可能性も考慮している。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト膵島の病理学的評価は主に免疫組織化学、蛍光抗体法を用いて行っている。この場合、観察可能な標本数に合わせて高額な抗体を購入しているが、評価に予測以上の時間を要している。鋭敏な結果を得るためには、新鮮な状態の抗体を随時購入する必要がある。今回、そのため購入時期が次年度に及んだ。貯蔵期間が長いと抗体の力価が低下することから、常に新鮮な状態の抗体を用いる必要がある。一方、動物実験では、処理上の問題から一度に多数の動物を購入できない。本年度は予定より長期にわたって動物観察が長引いたために、十分な数の動物を処理できなかった。次年度は、飼育やケアの労力に合わせてより多くの動物数を検討したいため、研究費の次年度への繰り越しとなった。また、2020年度には学会発表や論文投稿のための費用にも使用する予定である。
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