研究課題/領域番号 |
19K09037
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
粟澤 元晴 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 糖尿病研究センター 分子糖尿病医学研究部 統合生理学研究室長 (90466764)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | EDA / 皮膚 / 代謝 / 血糖 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトにおいては無汗性外胚葉形成不全症の原因遺伝子であるEDA、およびそのイントロンに存在するmiR-676について、1, miR-676の代謝における役割の解明、2, EDAのアイソフォームの一つであるEDA-A1の代謝における意義付けを目標として挙げた。 この内、本年度はEDAについての研究を重点的に行った。EDA-A1はアイソフォーム特異的な受容体EDARに結合することで作用を発揮しするが、EDARの特異的な刺激型抗体を成獣マウスに投与すると、皮膚附属器、特に皮脂腺の機能が亢進すること報告されている(Kowalczyk-Quintas C et al., J Invest Dermatol., 2015)。我々はこの抗体をマウスに投与し、その代謝に与える影響を解析した。はじめにパイロット研究として4週齢時点から抗体投与を行ったところ、特に高脂肪食負荷下で体重の著明な減少が認められた。しかしながらこの体重減少は脂肪組織重量の低下によるものではなく、体長や各組織重量の低下が認められたことから、何らかの原因でEDA-A1シグナルの刺激が成長発達を障害したものと考えられた。この条件ではEDA-A1シグナルの持つ成獣での代謝影響の解析は困難であると判断し、既に成長発達の終わった12週齢のマウスに同抗体を投与し、高脂肪食を負荷して代謝への影響を観察した。すると体重や各組織重量の変化は認められなくなった一方で、随時血糖の有意な上昇を認めた。 一方で、皮膚生理の代謝に対する影響の解析を補完する目的で、マウス皮膚に血管拡張薬であるイロプロストを塗布し、マウスの熱放散を促進することで代謝変化が認められるかどうかも並行して検討している。予備検討ではイロプロストの2種間塗布によりマウスの随時血糖の低下が認められ、EDA-A1シグナルの増強モデルとreciprocalな変化であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトにおいては無汗性外胚葉形成不全症の原因遺伝子であるEDA、およびそのイントロンに存在するmiR-676について、1, miR-676の代謝における役割の解明、2, EDAのアイソフォームの一つであるEDA-A1の代謝における意義付けを目標として挙げた。 該当年度においては主に2についての検討を行い、実験系の確立と、マウスの代謝生理学的解析を行った。その結果として随時血糖の変化を認めており、実験モデルの有効性と共にEDA-A1アイソフォームが代謝に何らかの影響を与えている可能性が示唆されている。また、このモデルを補完する目的の発展課題として、皮膚血管の拡張薬をマウスに塗布する実験に着手し、皮膚の代謝における理解をより深めるべくモデルの構築と、パイロット解析を行った。この結果として、EDA-A1の刺激とは逆に皮膚における血管拡張が血糖値の低下を生じうる可能性が示唆され、 EDA-A1の過剰→皮脂分泌の亢進→熱放散の障害→血糖上昇 皮膚血管の拡張→熱放散の亢進→血糖低下 という二つのモデルを比較する形で皮膚の代謝における意義理解に迫る基盤づくりができた。 一方1について、一般に一つ一つのmicroRNAの働きは穏やかで、かつ一つのmicroRNAが多数の標的遺伝子に作用することから、単独のmicroRNAのみに着目した解析では不十分である可能性がある。このことを踏まえ、miR-676を含め脂肪肝で増加する複数のmicroRNAを培養肝細胞に複数共発現し代謝効果を観察する実験を計画している。具体的にはHFD-fed mouse, db/db mouse Liverで上昇するmicroRNAをsmall RNAseqで選別し、前者でFold change >2.5 をCut-offとし、miR-676を含めて10種類の脂肪肝で上昇するmicroRNAの選別が完了している。
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトにおいては無汗性外胚葉形成不全症の原因遺伝子であるEDA、およびそのイントロンに存在するmiR-676について、1, miR-676の代謝における役割の解明、2, EDAのアイソフォームの一つであるEDA-A1の代謝における意義付けを目標として挙げている。 前述の通り、2についてはEDA-A1の過剰が血糖上昇を引き起こすこと、皮膚血管の拡張が血糖低下を引き起こす可能性を示すデータが得られている。今後このメカニズムについて、皮脂分泌の評価、熱放散の評価(カロリメトリー)を行い、これらのパラメーターを介して血糖が変化した可能性を検討する。これらのパラメーターの関与の有無にかかわらず、この二つのモデルで各種臓器の遺伝子発現解析を行い、皮膚から血糖調節に至る分子学的メカニズムの解明を目指す。 一方1については、前述の通りmiR-676を含め脂肪肝で増加する複数のmicroRNAを培養肝細胞に複数共発現し代謝効果を観察する実験を計画しており、既にmicroRNAの選別は済んでいる。今後、これらを高力価でlentivirusベクターを用いて感染させることで、複数のlentivirusがランダムにそれぞれの細胞に入る(MOI 0.5 x 10種類 =MOI 5 となり平均5個/細胞のmiR。実際には3種類から7種類のmiRが入る細胞が全体の9割を占める)実験系を確立したい。これに対し、a) 脂肪蓄積そのものをbodipyで染色、特にb) PPARγに着目しPPARγ mRNAの蛍光検出、あるいはc) insulin刺激後のpAktの染色などを行い、シグナル強度の高低に応じてFACSで選別、10種類のmicroRNAにつきRT-PCRを行いどのmiRが濃縮されてくるかを検討する。これによりmiR-676を含むmicroRNAの代謝影響を検討したいと考えている。
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