メタボリックシンドロームにおいて基盤病態である慢性炎症を標的とする治療法は未だ開発されていない。申請者らは、マクロファージのH3K9メチル化酵素Setdb1について、in vitroにおいてリポ多糖(LPS)による炎症性サイトカイン発現を抑制すること、in vivo LPS投与モデルにおいて個体レベルで内在性炎症抑制因子として作用することを見出した。さらに、飽和脂肪酸や高血糖といった代謝ストレスによる炎症でもSetdb1が内在性炎症抑制因子として作用することを予備的に見出した。本研究は、「Setdb1が代謝ストレスによる慢性炎症をどのような分子機構で制御しているか」を解明することを目的とし、メタボリックシンドロームにおいて慢性炎症を標的とする治療法開発への足掛かりとなることを目指す。 Setdb1ノックダウンマクロファージ細胞株を用いたin vitroの系で、飽和脂肪酸、高血糖、不飽和脂肪酸などの刺激を行ったサンプルの炎症性サイトカインの動態を解析した。野生型では、飽和脂肪酸であるパルミチン酸刺激により、炎症性サイトカインの発現が経時的に上昇したが、Setdb1ノックダウン細胞株(Setdb1 KD)では、これらの炎症性サイトカインの発現が野生型に比し有意に上昇することを確認した。in silicoにてマイクロアレイ解析を行い、飽和脂肪酸刺激に反応する遺伝子群のうち、Setdb1によって制御される分子を複数同定し、Setdb1ノックダウンマクロファージを用いたin vitro系に戻し解析を進めた。解析の過程で、より安定的かつ明瞭なSetdb1ノックダウン実験系を確立する必要性が生じ、CRISPR-Cas9システムを用いたSetdb1欠損細胞株の作成を行い、構築した実験系の確認を行った。
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