本研究では癌幹細胞の様に増殖速度が低下するキネシンタンパクのKIF20B遺伝子変異に着目して、癌幹細胞の細胞分裂や増殖の鍵となる因子を同定することを目的とする。 KIF20Bの遺伝子の変異は増殖速度の減少と多核細胞の増加の表現型を示したことから、癌幹細胞の発生や進展に関わる変異であるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、まずKIF20B変異遺伝子を発現する乳がん細胞を分離する系を確立し、次に次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を行い、多核の癌幹細胞の増殖や維持に関わる候補遺伝子群を同定し、分子機構の解明を目指した。 昨年度まではKIF20B変異遺伝子を発現する乳がん細胞の特徴をさらに調べ、細胞分裂異常や染色体の分配異常が起こっていることまでは明らかにした。本年度はKIF20B変異遺伝子を発現する乳がん細胞をセルソーターにより分離し、細胞の特徴を調べると共に、RNA-seq解析を行った。セルソーターにより分離し細胞を使って、側方散乱光(SSC)の測定を行い、細胞内部の複雑さに関する情報を比較した。その結果、KIF20B野生型と変異遺伝子を発現する乳がん細胞では細胞内部の複雑さで多少差が見られた。分離したKIF20B野生型と変異遺伝子を発現する乳がん細胞のそれぞれを使って、RNA-seq解析を行い、比較したところ、遺伝子の発現で差が見られることがわかった。また、KIF20B変異遺伝子を発現する乳がん組織で免疫染色を行ったところ、KIF20B変異タンパク質は腫瘍細胞の核内に多く発現していた。今後はRNA-seq解析により得られた結果を基に、KIF20B変異遺伝子ががん幹細胞化へ向かうシグナル伝達経路やがん幹細胞の増殖・維持に関わる候補遺伝子群の同定を目指したい。
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