研究課題/領域番号 |
19K09062
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
山田 憲一郎 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 主任研究員 (30291173)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モワット・ウィルソン症候群 / ZEB2 / 病因遺伝子 / TBX1 / DiGeorge症候群 / 全エクソーム解析 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、モワット・ウィルソン症候群疑いの患者(3例)のZEB2の遺伝子解析を行ったところ、1例にZEB2の遺伝子異常を同定し、この患者はモワット・ウィルソン症候群であることを確定した。また、2例では、ZEB2に病因となる機能喪失型の遺伝子異常、遺伝子欠失や重複は見られなかった。そこで、共同研究者の協力を得て、ZEB2に異常が同定されていない2症例とそれぞれの両親の全エクソーム解析を新たに行った。しかし、現在までに報告されているモワット・ウィルソン症候群と類似または、共通の症状を呈する疾患の病因遺伝子群に、病因となる異常は検出されなかった。また、患者のde novoの遺伝子異常が見られた遺伝子群にも、症状と関連する有力な候補遺伝子は見られなかった。 前年度、全エクソーム解析を行ったが、まだ病因となる異常を同定できていない患者について、同一の遺伝子の両アリルに機能喪失型またはミスセンス変異が見られる遺伝子(ヘテロコンパウンド)を検索した。さらに、それらが複数の患者に共通していることを加えて絞り込んだが、現在までに有力な候補遺伝子に至っていない。 前年度に、TBX1遺伝子に同一のミスセンス変異を同定した2症例について、同定したミスセンス変異は、DiGeorge症候群患者で報告されている変異と同一であったことから、この2例はDiGeorge症候群であると確定診断した。この2症例と、モワット・ウィルソン症候群の典型例及び、DiGeorge症候群の典型例と症状の比較検討を行った。現在、この検討結果をまとめ、論文を投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、ZEB2に異常が同定されていない症例19例のフォローアップと、全エクソーム解析を行った。全エクソーム解析結果の候補遺伝子リストから、まず既知の精神運動発達遅滞の病因遺伝子に当たるものを検索した。その結果、3例の病因遺伝子(ZEB2, TBX1)を同定し、確定診断につなげることができた。後者の2例はDiGeorge症候群であった。後者の2例については、現在論文にまとめ、投稿中である。 今年度は、他機関においてすでに病因となりうるゲノムの異常が同定されていた症例を除いた残りの12例と、新たにエクソーム解析を行った2例について、機能喪失型だけでなく、ミスセンス変異についても、1)複数の症例に共通し、2)なおかつヘテロ接合性の機能喪失型変異を検索した。遺伝子の機能、発現部位や変異の発生頻度などを考慮し、いくつかの遺伝子を候補として検出した。しかし、サンガー法によりゲノムシークエンスを確認したところ、いずれもエクソーム解析で検出された変異が見られず、病因として認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、全エクソーム解析結果の候補遺伝子リストから、候補遺伝子を検索する。今後は、以下の条件で絞りこみを行う。モワット・ウィルソン症候群では、神経堤細胞の分化及び遊走の異常により、各臓器や器官に症状が出ると考えられている。本研究で対象となっている症例は、モワット・ウィルソン症候群に類似、または共通する症状を呈している。すなわち、原因遺伝子はZEB2とは異なるが、症状が似ているため、発症のメカニズムは共通している可能性がある。そこで、神経堤細胞の分化及び遊走の異常が共通したメカニズムではないかと考え、Online Mendelian Inheritance in ManやMouse Genome Informaticsなどのデータベースから、ヒトだけでなく、マウスの実験においても神経堤細胞の分化及び遊走に関連する遺伝子を網羅的にリストアップする。次に全エクソーム解析の候補遺伝子の中で、上述の神経堤細胞関連遺伝子リストに共通するものを検索する。そして、それらについて、1)機能喪失型だけでなくミスセンス変異や、2)同一の遺伝子の両アリルに機能喪失型またはミスセンス変異が見られるもの(ヘテロコンパウンド)、3)それらが複数の患者に共通している、などの条件で、有力な候補遺伝子を絞り込む。得られた候補遺伝子について、全エクソーム解析で見られた変異を、サンガー法により確認する。変異が確認された有力な候補遺伝子は、変異を持つ発現ベクターを作成し、培養細胞に導入して、同定した変異の候補遺伝子の機能に与える影響を評価する。可能であれば、iGONAD法を用いて、同定した異常を再現したモデルマウスを作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度も、引き続きモワット・ウィルソン症候群疑い患者のZEB2遺伝子解析を行ってきた。その中で、ZEB2に変異が同定されなかった患者がおり、2020年度も、それらの患者についてエクソーム解析を行った。共同研究者が、そのエクソーム解析を行ってくれたので想定額より安く行うことができた。そのために次年度使用額が生じた。 次年度は、今年度と同様に、有力な候補遺伝子の同定を目指す。異常が同定された遺伝子について、従来通り、免疫組織染色を行い、候補遺伝子の胎生期のマウスにおける発現時期・部位(特に脳や神経提細胞)を明らかにする。候補遺伝子が、末梢血でも発現する遺伝子であれば、患者のリンパ芽球において、候補遺伝子の発現異常を解析する。可能であれば、iGONAD法を用いて、同定した異常を再現したモデルマウスを作成する。
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