研究課題/領域番号 |
19K09065
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 貴 東北大学, 医学系研究科, 教授 (10261629)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳癌 / リンパ球 |
研究実績の概要 |
1.ヒト乳癌細胞の増殖および浸潤におけるCLEC2Dの役割に関して:ヒト乳癌培養細胞T-47DおよびMDA-MB-231にCLEC2Dに対するsiRNAをトランスフェクションして細胞増殖試験を行ったところ、これらの細胞の増殖能が有意に抑制された。また、比較的高い浸潤能を有するとされる乳癌細胞MDA-MB-231にCLEC2Dに対するsiRNAを導入して創傷治癒試験を行って遊走能を評価したところ、MDA-MB-231細胞の有意な抑制が確認された。 2.ヒト乳癌組織を用いたCLEC2Dの発現意義に関して:ヒト乳癌組織約100例に対してCLEC2Dの発現を免疫組織化学により評価したところ、CLEC2D陽性症例はエストロゲン受容体陰性群に多く、また、増殖能が高く再発しやすい傾向にあった。これらより、CLEC2Dは乳癌の増殖進展に寄与している可能性が示唆された。一方、必ずしもすべての乳癌培養細胞でCLEC2Dの発現抑制による増殖・遊走の抑制がみられたわけではなく、CLEC2Dに依存して増殖・遊走する細胞とそうでない細胞が存在すると思われた。 3.CLEC2Dによるリン酸化シグナルの調節について:研究当初、乳癌細胞に発現するCLEC2DがTh17細胞のCD161と相互作用し、乳癌細胞内にリン酸化シグナルを伝えるものと予想した。この仮説を検証すべくTh17細胞のモデル細胞の樹立を試みたが、いまだ成功に至っていない。代替手段としてCD161を発現するNK細胞様培養細胞KHYG-1をCLEC2Dを発現するMCF-7と短時間共培養して乳癌細胞から蛋白を抽出してAktやERKのリン酸化を検証したところ、これらのリン酸化が亢進することを見出した。今後、、CD161中和抗体やCLEC2D中和抗体を用いてリン酸化の亢進がこれらの蛋白の相互作用によるものかどうか検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年次に予定していたTh17 モデル細胞の樹立は未だ成功に至っていない。T細胞系白血病培養細胞Jurkatに種々のサイトカインを暴露して分化誘導を試みたが、IL-17の有意な発現誘導が見られず、別の方法(Th17細胞への分化を誘導するとされる転写因子RORC2の強制発現)などを今後検討していく。もととなる細胞も、JurkatにこだわらずMOLT-4やMy-Laなど別の細胞の使用を検討する予定である。 CLEC2DおよびCD161相互作用を検証するためのリコンビナント蛋白の精製にも遅れが生じている。当初、大腸菌にプラスミドを導入して蛋白を作らせ、それを精製することを想定していたが、蛋白の糖鎖修飾が相互作用に関与する可能性が想起されたため、哺乳動物細胞(HEK293)を用いた方法に変更を決めた。これに伴うベクターの構築が遅れており、蛋白の精製に至っていない。 上記理由よりヒト細胞を用いたCLEC2DとCD161の相互作用を検証する実験が当初の計画通りには進まず、CLEC2Dが発現することが確認されている乳癌培養細胞MCF-7とCD161が発現することが確認されているナチュラルキラー(NK)細胞様培養細胞KHYG-1との共培養実験を構築して遅れを取り戻すよう努めた。また、3年次に予定されていたヒト乳癌検体を用いた免疫組織化学染色の実験を先行させた。
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今後の研究の推進方策 |
Th17細胞のモデル細胞の樹立およびリコンビナント蛋白の精製に全力を注ぐ。いずれも発現プラスミドの準備がボトルネックとなることが予想されるので、遺伝子工学実験に造詣の深い研究者にアドバイスを請いながら進める。Th17細胞のモデル細胞の樹立に関しては市販の分化誘導培地の使用を視野に入れる。ただしこの方法は常に安定した分化誘導が保証されるわけではないので最終手段ととらえる。また、MCF-7とKHYG-1細胞の共培養実験ではCLEC2DとCD161の相互作用を伺わせる実験データが得られつつあるので、中和抗体を用いた実験を構築して更なる検討を行う。 ヒト乳癌病理検体を用いた解析ではCLEC2Dが予後不良因子となる可能性が示唆されたが、統計学的なパワーがいまひとつなので、症例をさらに100例程度追加して検討する。また、CD161もしくはIL-17の免疫を施行して乳癌組織に浸潤するTh17細胞を評価し、その臨床病理学的意義をCLEC2Dの発現の有無と合わせなら解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたTh17細胞の分化誘導の実験に遅れが生じた一方、3年次に予定していた病理検体を用いた免疫組織化学染色の実験を先行して行ったため、若干の余剰が生じた。
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