研究課題/領域番号 |
19K09073
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
入江 敬子 (古澤) 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (30644728)
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研究分担者 |
宮田 潤子 (秋吉潤子) 九州大学, 医学研究院, 講師 (20380412)
吉丸 耕一朗 九州大学, 医学研究院, 講師 (60711190)
小幡 聡 九州大学, 大学病院, 助教 (30710975)
伊崎 智子 九州大学, 大学病院, 講師 (90423491)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管神経節細胞僅少症 / 幹細胞移植 / 大建中湯 / JF1 / Ednrb |
研究実績の概要 |
腸管神経節細胞僅少症(Hypoganglionosis, Hypo)は、消化管壁内神経節細胞の著明な減少に起因する蠕動不全を呈する厚生労働省指定難病であり、新たな治療法が渇望される疾患である。ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from human exfoliated deciduous teeth, SHED)を用いた幹細胞移植療法を新規治療法として確立すべく行った先行研究において、Hypoモデル動物へのSHEDの経静脈投与にて腸管蠕動運動改善効果を得た。 今回、Hypoへの幹細胞移植による腸管蠕動運動改善効果を、長期間、確実なものにする方法として漢方薬に着目した。中でも、すでに小児の消化器疾患で多く臨床の現場で使用されていること、基礎研究において複数のエビデンスが確立していることから大建中湯を使用することとした。 大建中湯は、腸管粘膜上皮細胞の副交感神経節後線維上に存在するバニロイド受容体(TRPV1)を直接活性化することによる腸管運動亢進作用や、腸管神経やカハール介在細胞のKCNK9チャネル阻害によるK+放出抑制にて腸管神経とカハール介在細胞の反応性増強作用、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)分泌促進作用が知られている。 Hypoモデル動物として、先行研究同様にJF1/Msを用いることとしたが、平行して行っていた他施設での実験で、JF1/Ms腸管の病理組織検査を施行したところ、腸管神経細胞数の減少を認めなかった。このことから表現型の発生にはEdnrb遺伝子の変異のみでなく、環境要因などの関与があるものと推察された。Ednrbの発現低下と環境因子が合わさって表現型が出るのか、または環境因子によって腸管神経節細胞およびその前駆細胞のEdnrbのスプライシングに異常をきたすかなど検討することで、表現型を修飾する因子が見出される可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
JF1/Msはpiebaldという突然変異を持っており、endotherin receptor type B(Ednrb)のイントロン内にβ4が挿入して発現量が低下している。C57BL等の近交系や、日本産野生マウスから樹立した近交系マウスに比し、体のサイズが小さく寿命も短い。Ednrbのnull mouse(Enrbs-l/s-l)では、JF1と同様の白斑に加え、肛門側結腸の腸管神経節細胞の欠如とそれに伴う巨大結腸が認められるが、JF1/Msではメラノサイトの欠損こそ必ずあるものの、巨大結腸や消化器症状を呈することは稀だとされている。一方、JF1/Msの肛門側結腸では神経節細胞の数と密度が低下しているとの報告があり、実際に我々の施設で先行研究で用いたJF1/Msは、肛門側結腸を主体とした病理学的に示された腸管神経節細胞数の低下と同部位の生理学的異常を認めた。 そこでJF1/Msには消化管異常があるとの前提のもとHypoモデル動物として今回の研究でも用いることとした。しかし、JF1/Msに大建中湯添加餌の投与を行った別実験にて、肛門側結腸は大建中湯投与の有無に関わらず神経節細胞減少が証明されなかった。なお、腸管組織のTRPV1・TRPA1の発現は、大建中湯投与群では明らかに増加していることが確認できた。 繁殖・飼育環境や餌の違いにより、異なる表現型を示したことは非常に興味深い。Ednrbの発現低下と環境因子が合わさって表現型が出るのか、または環境因子によって腸管神経節細胞およびその前駆細胞のEdnrbのスプライシングに異常をきたすかについての検討は、病因判明とともに新規治療法開発のための有意義な視点となる。 しかしJF1/Msに腸管神経節細胞減少がコンスタントにないとすれば、幹細胞移植効果について評価することは困難であり、動物実験計画は大幅な変更を要するため(4)と評価した
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今後の研究の推進方策 |
先行研究にてHypoモデル動物として用いたJF1/Msについて、搬入元が同じであっても、繁殖・飼育環境、餌が異なる状況においては、コンスタントな結腸のHypoganglionosisは確認されず、最大およそ1000日の長寿を全うするという表現型を示した。 そのためJF1/Msを本研究の疾患モデルとして用いる現在の動物実験計画については大幅な変更が必要と考えている。 そこで、まずは現在のサンプルを用い、漢方薬投与有無による腸管運動への影響を、引き続きTRPV1・TRPA1・CGRPに着目し検討を続ける。また、幹細胞培養への漢方薬添加実験は、計画を前倒し施行することとする。 表現型の発生にはEdnrb遺伝子の変異のみでなく、環境要因などの関与があるものと推察され、表現型と環境要因および環境要因に起因する様々なパラメーターの関連性を調べることで、表現型を修飾する因子が見出される可能性があり、これについては別途研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験計画は大幅な変更を要するため。次年度に現在のサンプルを用い、漢方薬投与有無による腸管運動への影響を、引き続きTRPV1・TRPA1・CGRPに着目し検討を続ける。 使用計画:実験動物、試薬、実験器具に使用
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