研究課題
我々はこれまでのヒト乳癌細胞株を用いた研究から、HER3の分解に関わるいくつかのユビキチンリガーゼや分解促進因子、2量体パートナーなどがその生物学的特性に影響することを見出してきている。これらの研究で得られた候補因子のなかから、エストロゲン(ER)受容体陽性乳癌に特に重要で,予後と治療効果に相関する因子としてNEDD4の可能性を見出した。NEDD4 はユビキチンリガーゼであり、対象とするタンパク質の分解を促す。ERもNEDD4のユビキチン化の対象蛋白質である。本年度は3種類のsiRNA、2種類の細胞株を使用しての、NEDD4ノックダウンによるERの発現量変化および細胞生物学的特性変化の検討・確認を詳細におこなった。これらの実験結果により、NEDD4がERの分解に関与しており、NEDD4の少ないER陽性乳がん細胞ではERの発現量の維持とそれに伴うホルモン療法への応答性が良好になっていることが確認された。また、本学の医療‐産業トランスレーショナルリサーチセンターで構築した、乳がん組織由来の遺伝子発現解析データ(約500例)を用いて、ERとNEDD4の 発現状況と患者の予後との相関を検証したところ、NEDD4低発現と予後良好に明確な相関が得られた。研究期間全体を通じたこれらの結果から、NEDD4がER陽性乳がんにおける予後予測因子、ホルモン療法への効果予測因子として利用できる可能性が確認できた。また、ERの発現量をユビキチンリガーゼへの介入を通じて制御するという、新たな治療戦略の開発可能性が示唆された。
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