研究課題/領域番号 |
19K09097
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
桐野 浩輔 九州大学, 大学病院, 助教 (00621707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒト多能性幹細胞 / ES細胞 / iPS細胞 / CRSPR/Cas9 / 神経芽腫 / 交感神経細胞 |
研究実績の概要 |
研究代表者が開発したヒト多能性幹細胞から交感神経細胞およびその前駆細胞への分化誘導法を用いて、ヒト多能性幹細胞由来交感神経前駆細胞において神経芽腫で認められる遺伝子異常を人工的に再現することを試みた。つまり1p36領域28Mbpの欠失やMYCN遺伝子や変異型ALK遺伝子の強制発現である。 sgRNAベクター(レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV1)ベクター)と恒常的に発現させたCas9を用いることで、HeLa細胞において1p36領域28Mbpの欠失を繰り返し再現することができた。しかし、ウイルスの感染効率や多重感染度の最適化を図った上でも、ヒト多能性幹細胞由来交感神経前駆細胞において1p36領域28Mbpの欠失を引き起こすことができなかった。 「MYCN遺伝子の強制発現によりアポトーシスする交感神経前駆細胞が、何らかの2nd hitにより生き残る」という作業仮設を支持するために、MYCNの強制発現に加えて変異型ALK遺伝子の強制発現を試みた。遺伝子導入はAAV1ベクターを用いて行い、テトラサイクリン遺伝子発現誘導系によるMYCN遺伝子強制発現と組み合わせることで、浮遊培養環境下においてMYCNの強制発現のみの場合では見られなかったPHOX2B陽性・MYCN陽性のニューロスフィアが散見することができた。このニューロスフィアを構成する細胞は増殖能を有することがわかり、継代培養して株化することに成功した。変異型ALKとMYCNの組み合わせが形質転換を引き起こしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19感染拡大に伴う2度の緊急事態宣言により、研究実施や共通実験機器使用に大きな制限がかかった。特に大学の共通実験機器の使用が困難となりベクターの構築と遺伝子配列の確定作業が著しく滞った。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト多能性幹細胞由来交感神経にMYCNと変異型ALK遺伝子を強制発現して得られた細胞株の形質を確認するため、重度免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス)への異種移植し、腫瘍形成性を確認する。 細胞株の性状を評価するために、免疫染色やPCRにより遺伝子発現を評価する。さらに、網羅的な遺伝子発現解析(RNAシーケンス)を行い、ヒト多能性幹細胞由来交感神経や種々の神経芽腫細胞株と比較検討する。 MYCNによる交感神経細胞の死が変異型ALKによって回避される可能性が示唆されたので、本来の作業仮設である1p36領域28Mbpの欠失をMYCN強制発現と組み合わせて検討する。1p36領域28Mbpの欠失のみを引き起こす系では目的とする欠失が引き起こされていることが必ずしも確認できなかった。これは1p36領域28Mbpの欠失単独では、細胞生存や細胞増殖に対するアドバンテージを獲得できないため、頻度の低い1p36欠失が検出されていない可能性がある。MYCN強制発現を組み合わせることで、検出力を高めることができる可能性があると考える。 MYCNと1p36領域28Mbpの欠失による形質転換を認めた場合には、引き続き1p36領域の責任領域を狭めていくための作業を行い、形質転換の責任遺伝子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は予定していたベクター構築と十分な細胞性状評価を行うことが出来なかった。このため次年度において今年度十分でなかった計画遂行を図る。 使用計画:試薬、抗体、実験器具に使用
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