ヒト多能性幹細胞から交感神経細胞およびその前駆細胞への分化誘導法を用いて、ヒト多能性幹細胞由来交感神経前駆細胞において神経芽腫で認められる遺伝子異常を人工的に再現し、細胞表現型の変化の観察を試みた。 最終的な目標である1p36領域28Mbpの欠失については、ヒト多能性幹細胞由来交感神経前駆細胞におけるアデノ随伴ウイルス(AAV1)ベクターの感染を最適化することができず、1p36領域の欠失を人工的に再現することができなかった。 「MYCN遺伝子の強制発現によりアポトーシスする交感神経前駆細胞が、何らかの2nd hitにより生き残る」という作業仮設を支持するために、MYCNの強制発現に加えて変異型ALK遺伝子の強制発現を試みた。遺伝子導入はAAV1ベクターを用いて行い、テトラサイクリン遺伝子発現誘導系によるMYCN遺伝子強制発現と組み合わせることで、浮遊培養環境下においMYCNの強制発現のみの場合では見られなかったPHOX2B陽性・MYCN陽性細胞を含むニューロスフィアを同定した。 この細胞が神経芽腫の細胞株の表現型について、以下の実験を行い確認した。①clonalな増幅の可否を確認するため、超低細胞密度における浮遊培養を行いニューロスフィアの形成を試みたが、神経芽腫細胞株と異なりclonalな増幅はできなかった。②蜜な細胞密度では容易に継代培養が可能であり、MYCNおよび変異型ALKをいずれも導入していない細胞に比しやや高い増殖能を示した。また、③ロックインヒビターに反応して神経細胞へと分化した。 以上より、ヒト多能性幹細胞由来交感神経前駆細胞から増殖能と分化能を維持する細胞の誘導に成功した。癌細胞としての特性を有しているかどうかについてはさらなる解析が必要であるが、ヒト多能性幹細胞を用いたフォワードジェネティックな神経芽腫の誘導モデルの樹立に向けて大きく前進したと考える。
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