本研究では、卵巣がん患者の手術検体から樹立したヒト異種移植腫瘍(PDX)と脂肪組織由来幹細胞(ADSC)を用いて解析を行なっているが、shDPP4を用いてDPP4をノックダウンしたADSC細胞も樹立できているため、これらの細胞をマウスに共移植して解析を行った。 (1)卵巣がん細胞株の一つであるES-2細胞とADSC細胞を免疫不全マウスに共移植してDPP4阻害剤を経口投与したところ、コントロール(滅菌水投与群)と比べてDPP4阻害剤(vildagliptin投与群)で、腫瘍の増大が抑制される傾向がみられた。しかし、ES-2細胞とDPP4をノックダウンしたADSC細胞を免疫不全マウスに共移植しても、コントロールのADSC細胞を共移植した腫瘍と比べて腫瘍の増大傾向に差はみられなかった。この結果は、腫瘍へのDPP4の供給がADSC細胞からだけではなく、マウス体内で産生されるDPP4の供給が影響しているのではないかと考えられた。 (2)卵巣がん患者の手術検体から樹立した卵巣がんPDX細胞とADSC細胞を免疫不全マウスに共移植して、DPP4阻害剤を移植後1ヶ月間だけ経口投与した。その結果、コントロール群(滅菌水投与群)と比べてDPP4阻害剤(vildagliptin投与群)で腫瘍ができるまでの期間が長くなる傾向がみられ、その後の腫瘍増大が、DPP4阻害剤投与群で有意に抑制されるという結果が得られた。
これらの結果より、脂肪細胞による卵巣がんのがん進展促進作用にはDPP4が関与している可能性があり、DPP4阻害剤の脂肪細胞による卵巣がんの進展を抑制する薬剤としての有用性が示唆された。
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