研究課題/領域番号 |
19K09120
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
種村 匡弘 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (30379250)
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研究分担者 |
三善 英知 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20322183)
江口 英利 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90542118)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膵癌 / 腹腔内遊離癌細胞 / 微小循環癌細胞 / リキッドバイオプシー / ゲノム進化 / バイオマーカー / テロメスキャン |
研究実績の概要 |
【背景】膵癌(PK)外科治療における腹腔洗浄細胞診(CY)陽性の意義は、本邦診療ガイドラインではCY陽性膵癌に対し膵切除を行うべきか否かは明らかではないと記載されている。 【目的】ウイルス製剤TelomeScanを応用し腹腔内遊離癌細胞(PTC)のviabilityを加味したCY診断能を評価した。 【方法】2015年1月からPK53例を対象に開腹時にパパニコロウ、MOC-31染色を基準としたconventional CY(conv-CY)と、CEA, CA19-9, EpCAM免染を付加したTelomeScan CY(Telo-CY)を実施し腹膜再発など予後を解析した。 【結果】男:女=30:23、計53例、全例肉眼的播種は認めず切除できた(TP:PD:DP=7:32:14)。CY判定では6例にconv-CY(+)、12例にviable PTC(v-PTC)を検出しTelo-CY(+)と診断した。組み合わせではconv-CY(+)/ Telo-CY(+)は2例、conv-CY(+)/ Telo-CY(-)は4例、conv-CY(-)/ Telo-CY(+)は10例、conv-CY(-)/ Telo-CY(-)は37例であった。conv-CY(+)/Telo-CY(+)2例共に術後8カ月で腹膜再発し癌死した(100%)。一方conv-CY(+)/ Telo-CY(-)4例では全例腹膜再発はなかった (0%)。またconv-CY(-)/ Telo-CY(+)10例では4例に術後約8カ月で腹膜再発した。conv-CY(-)/ Telo-CY(-)22例では4例のみ腹膜再発した。 【結語】viabilityを加味したTelo-CY診断は腹膜再発予測ツールとして有用であり、進行膵癌では術前審査腹腔鏡によるconv-CYおよびTelo-CYの結果が膵切除実施の重要な因子となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵癌に対し有用なリキッドバイオシーとして注目している腹腔内遊離癌細胞検出をテロメスキャンを用いて特異的に検出する方法を確立できた。さらに、これまで行ってきたパパニコロ染色を基軸とした腹腔内洗浄細胞診と今回、われわれが確立したテロメスキャン腹腔内洗浄細胞診の2種類のリキッドバイオプシーにより、潜在する腹膜播種を高感度に検出し、術後の腹膜再発を高率に予測できることを導き出した。 また、α-gal-GDを応用した糖鎖医薬の創製については、4種類のGlcNAc修飾グルカンデンドリマー(GD10-N10, GD10-N20, GD10-N40, GD35-N15)にα-galエピトープを結合させ、最もヒト抗原提示細胞が認識しやすいα-gal-GD分子をα-gal-GD10-N40に決定できた。今後は、膵癌ワクチン療法に用いられているMUC1ペプチドに結合させα-gal-GD-MUC1複合体を合成する。このワクチンマテリアルを用いて抗MUC1抗体誘導の有無を確認していく。
上記のように新しい知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
リキッドバイオプシーについては、今後、AIを用いたT-CAS1細胞検出ソフトを応用して、より高速に、より正確にテロメスキャンで蛍光発症させた癌細胞を検出できるシステムを構築し、CTCおよびPTCの検出に応用する。最終目標は臨床応用できる技術に進展することを目指す。 また、2020年度でヒトに認識されやすいα-gal-GDをα-gal-GD10-N40に決定できた。このα-gal-GDをMUC1 peptideさらに膵癌分子標的薬に結合させ、膵癌細胞をターゲティングできるα-gal-GD複合体を探求する。MUC1との結合については、通常使用されている長さのペプチドで抗腫瘍免疫を誘導できるか、長いペプチドでのMUC1で、生体内での分解速度が遅いMUC1とα-gal-GDとを結合させる必要があるのか探求していく方針である。また、より強力な抗腫瘍免疫を誘導すべくT cell epitopesも追加結合させ、腫瘍特異的CD8 CTLの誘導も可能であるか探求していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
BR-、R-膵癌でのCTCおよびPTC検出の臨床的意義、個別化治療への応用の可能性を明らかにすることができた。将来の臨床応用を見越して、より感度の高い検査 方法と多くの検体解析を実現すべく、AIを用いた細胞検出ソフトにより遊離癌細胞を自動検出することとなった。これらの変更・改良の有効性を検証するpilot studyとしてリキッドバイオプシー実験を実施できたため、少ない費用でCTCおよびPTC検出を遂行する事ができた。 この研究経費削減により生体内で長期残留できるα-gal-グルカンデンドリマーの構造決定やin vivo PDX model作成のためのNOD/SCIDmice購入に費用を回すことができ、研究計画全体として好都合の研究費繰り越しとなった。 来年度に繰り越した研究費および来年度の研究費により目標を達成できると考えている。
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