本研究では、大腸癌肺転移の発生および進展における肺内環境、中でも肺サーファクタント蛋白d (SP-D)の重要性を明らかにすることを目的にしている。 これまで、in vitroの実験系において、SP-Dがマウス大腸癌細胞株(CMT-93)の悪性度を抑制することを明らかにした。 次に我々は、in vivoの実験系においても同様に大腸癌肺転移モデルを用い、野生型のC57Bl/6マウスとSP-Dノックアウトマウスで、肺転移形成に関して比較検討したところ、SP-Dの存在しないSP-Dノックアウトマウスでは野生型に比べて、肺転移ができやすいことを明らかにした。 さらに、肺転移形成に肺内のSP-Dがどのような分子メカニズムで影響を与えているかを、マウスの大腸癌肺転移細胞から樹立した肺転移好発細胞株であるCMT-93PMを用いて検討した。まず、このCMT93-PMをC57Bl/6マウスに尾静脈注入し、肺転移が形成されること、そして、親株であるCMT-93よりも肺転移がしやすいことを確認した。次に分子メカニズムを調べるために、SP-D存在下での細胞増殖能および浸潤能を比較した。結果、親株であるCMT-93では、SP-D存在下では、総職能および浸潤能が抑制されるのに対し、CMT-93PMは、SP-D存在下であっても、増殖能及び浸潤能は比較的抑制されないことが明らかとなった。増殖能に関わる分子であるAktについても検討してみると、やはりCMT-93PMはSP-D付加によるAkt蛋白レベルの低下が親株のCMT-93と比べて抑制されていることが確認された。つまり肺転移形成を起こしやすいPMT-93PMはSP-Dに対する耐性を獲得していることが示唆される。まとめると、肺内にあるSP-Dは大腸癌肺転移形成を抑制する可能性があり、肺内のSP-Dを着目した当たらな治療方法が期待される。
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