研究課題
本研究は肥満が肝発癌に及ぼす影響について腸内細菌叢(フローラ)のバランスの変化(破綻)がかかわっていることを解明し、それに基づいた発癌予防策の確立を目的として行っている。これまでの先行研究で、肥満肝癌患者では非肥満肝癌患者に比べ腸内フローラの破綻および腸管壁バリア機構の異常が認められていることより、肥満患者に対する肥満治療で腸内フローラの破綻が軽減し、癌再発が抑制されるかに関して臨床試験を行っている。同意を得られた肥満患者に対し食事療法(25kcal/kg標準体重/日,治療前体重の3%以上の減量目標)による肥満治療を行い(肥満群)、また非肥満患者には30kcal/kg標準体重/日の標準的な食生活を指導する(非肥満群)臨床試験を進めている。肥満群、非肥満群いずれも目標症例数に達していないが、肥満症例では、登録症例全例で肥満治療により全例治療前体重の3%以上の体重減少を達成し、1年経過時点でリバウンド症例はなかった。手術前の腸内フローラは肥満群では非肥満群と比較し、Firmicutes門が増加し、Bacteroidetes門が減少していた。術後1年後の腸内フローラ組成を検討したところ、肥満群ではFirmicutes門が減少していた。非肥満症例では差が認められなかった。腸管壁バリア機構の指標である血清ジアミンオキシターゼ(DAO)は手術前は肥満群では非肥満群より低い傾向であったが、術後1年後は肥満群が上昇する傾向で、非肥満群とさが認められなかった。もうひとつの腸管壁バリア機構の指標である糞便中IgAは手術前は肥満群では非肥満群高い傾向であり、術後1年後肥満群ではほとんど変化が認められなかった。癌再発に関しては肥満群、非肥満群いずれも認められなかった。
3: やや遅れている
臨床試験を進めているが、新型コロナ肺炎流行に対する対策で、手術制限されていた中で、BMI30以上の肝癌症例数が2020年は非常に少なく、感染予防対策が取られている中での採便を必要とする研究が進めにくい環境であった。
臨床試験を2021年度は継続して行い、肥満群および非肥満群で、術前、術後(肥満治療開始前)、肥満治療終了直後、術後1年後に腸内フローラ組成の解析、血清DAO、糞便中IgA測定、肝硬度の評価、癌の発生について検討する。そしてC型肝炎根治後の肝癌に対して肝切除を施行した症例における肝癌発生に、肥満に伴う腸内フローラの変化がトリガーになっているのか、肥満治療(+運動療法)は肝発癌抑制に関与するのかを動物実験で検証する。無菌マウスに肥満もしくは非肥満SVR患者の術後の糞便を移植する。2か月後に定着を確認後、肝発癌を発生させるためにdiethyl-nitrosamine を腹腔内投与する。飼育開始から8週間、超高脂飼料を投与する。その後、無治療、肥満治療、肥満治療+運動療法を行う(24週間)群を作り36週令での癌発生について検討する予定である。
コロナ対策により臨床試験の登録数が少なく、腸内フローラ測定に出した検体数が少なかったこと。学会などがWebになり、旅費などが減少したためです。本年度、予定登録数まで臨床試験を継続するため、新規登録症例に対する腸内フローラ測定、血清検査などを行います。また研究の報告のために学会での旅費に使用します。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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