研究課題/領域番号 |
19K09153
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
田中 浩明 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90382168)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胃癌 / TLS / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
胃癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の有効性が大規模臨床試験で示されて以降、腫瘍浸潤リンパ球などの腫瘍微小環境がバイオマーカーとして注目されている。腫瘍浸潤T細胞の役割はこれまで多く解析されているが、B細胞についてはいまだに不明な点が多い。近年Tertiary Lymphoid Structure (TLS)と呼ばれるリンパ節に構造的に似た組織が肺癌、乳癌などの癌組織内にも存在し予後に関与することが知られてきた。すなわちB細胞が腫瘍局所TLS内でT細胞に抗原提示を行っている可能性がある。本研究の目的は、胃癌組織におけるTLS内のB細胞が抗原提示能を有し腫瘍浸潤T細胞を誘導しているか、免疫チェックポイント阻害剤との臨床効果との関連があるかを検討することである。 検討項目は以下のとおりである 1. 胃癌組織内腫瘍浸潤B細胞に注目しTLS 内のB細胞のサブセットを明らかにする。2. TLS周囲の樹状細胞(DC)、T細胞サブセットを解析し、その機能を解析する。3. TLS周囲のTCRあるいはBCRのレパトア解析を行い抗原特異的あるいは腫瘍特異的抗体遺伝子を同定する。4. 解析データと免疫チェックポイント阻害剤投与例における臨床データとの関連について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.腫瘍内B細胞を単離してflow cytometryを用いて、IgDおよびCD38の発現に基づいた各B細胞サブセット(naive B細胞、pre-GC B細胞、germinal center(GC) B細胞、memory B細胞、Plasmablast)、およびHLA-ABC/DR、CD80/CD86、CD27/CD70の発現を検討した。その結果、腫瘍内B細胞は、他部位と比較してIgD発現の低下およびCD38発現の上昇が見られ、活性化に伴い分化誘導していることが示された。 2.胃癌におけるレジデントメモリーTRMの存在を確認した。TRM high群はlow群に比し、分化型で多く,深達度およびStageは低く、リンパ節転移は有意に少なかった。予後に関しては、全生存率(OS)および無再発生存率はともにTRM high群で有意に延長していた。SまたCD103陽性T細胞とCD8 T細胞の浸潤量には相関関係が見られた。 3. 腫瘍内B細胞のB cell receptor(BCR)遺伝子を解析した。PCRの結果では腫瘍内B細胞ではBCR遺伝子発現にクローン化の傾向があった。TLS周囲ではグランザイムBやIL-12発現の上昇を認めた。 4. 解析データと免疫チェックポイント阻害剤投与例における臨床データとの関連について科でNivolumabが導入された切除不能進行再発胃癌症例を対象とし、組織内TLSと臨床効果との関連について検討した。その結果、irAEは有意にTLS high群で多く認め(p=0.018)、また効果を認めたPR3例はすべてTLS high群であり、病勢制御率はTLS high群で高い傾向にあった。OSは有意にTLS high群で延長していた
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今後の研究の推進方策 |
本研究により明らかになったことから、TLSを中心に今後の研究を推進する 1.胃癌組織内のTLSではB細胞が分化している。今後は、B細胞による液性免疫の増強と抗腫瘍免疫誘導との関連について検討する。また、TLSの形成(すなわちB細胞の分化)にかかわる分子の同定を行う。2.TLSではメモリーT細胞が誘導される可能性がある 今回同定したのはレジデントメモリーT細胞であるが、さらに細かい機能解析を行う必要がある。3.局所のTLSは病変切除後の免疫能とも関連する。TLSが多くみられる症例では、主病巣切除後も免疫療法が有効であったことから、エフェクターメモリーT細胞が残存する可能性が高い。あるいは、メモリーB細胞であるかもしれない。TLSの全身免疫能へ及ぼす影響をさらに検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により、事業期間の延長を承認いただいた
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