研究課題
リンパ管は間質液調節による体液循環の維持や免疫細胞の循環による免疫応答の分担など生理的に重要な役割を担っている。炎症時には構造や機能を変化させ、リンパ管を増殖新生させて、炎症収束や組織修復に関与する。リンパ管の制御調節因子や病態時のリンパ管可塑性の研究が開始されたのは最近であり、リンパ管可塑性を制御する分子基盤を解明し、組織修復につなげる治療応用を探索する必要性は大きい。肝虚血再潅流障害後の肝修復過程が障害されると患者は肝不全に至り、その予後は不良となる。しかしながら肝修復制機構は不明な点が多い。本研究では、まず肝組織修復にリンパ管新生が関与するのかどうかを調べた。この解明のために選択したのは肝虚血再灌流障害モデルである。再灌流障害後の肝修復過程を解析すると、再灌流48時間後から96時間後にかけて、再灌流障害によって惹起された肝壊死領域近傍の門脈中心域に拡張したリンパ管が集簇した。このときにリンパ管内皮マーカーやリンパ管新生因子などの発現をみると、いずれの因子も同時期に増加した。またこの時期は肝修復期にも合致した。すなわちリンパ管新生は肝修復と関連していたことがわかった。リンパ管新生因子を投与したときに肝修復は促進し、肝リンパ管新生も増強した。さらにリンパ管内皮活性化因子であるVEGFR3阻害薬を投与すると肝修復は遅延し、あわせてリンパ管新生も抑制された。これらの結果からVEGFR3シグナルを介してリンパ管新生を増強することで肝修復が促進する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究が、当初に立案した実験計画に沿って、ほぼ順調に遂行されている。肝虚血再灌流障害モデルにおいて肝修復過程に肝リンパ管新生が関連していることを示すことができたからである。
本研究によって確立した肝リンパ管新生モデルを用いて当初の実験計画に沿って、本研究を進めていきたい。とくに肝リンパ管新生の制御機構を解明する。このときにマクロファージが組織修復に重要な役割を果たすので、マクロファージの関与について検討する。
購入予定であった消耗品の納入が間に合わなかったこと、および最終月分の動物飼育費が次年度に請求されるために次年度に繰り越した。
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Lab Invest
巻: - ページ: -
10.1038/s41374-019-0364-0
Toxicol Appl Pharmacol
巻: 381 ページ: 114733
10.1016/j.taap.2019.114733