研究実績の概要 |
本研究では、膵癌における悪性度が、CAFの個体差に起因するかどうかを検証し、その個体差の原因となる因子を検討することを目的とした。まず8種類のhPSCを用いて膵癌細胞株と共培養実験を行ったところ、共培養するhPSCの違いにより、膵癌細胞株の増殖速度は最大で約1.4倍の違いを認めた(P<0.001)。そこでhPSCの個体差の決定因子を検討するため、様々な治療前臨床因子との相関を調べたが、腫瘍径やCA19-9値、FDG-PETにおけるSUV-max値などは、いずれも有意な相関は認めず、唯一、患者年齢に相関関係を認めた(p=0.051)。これより、癌に対するhPSCの増殖活性能力は、hPSCの老化に伴う、SASP(senescence associated secretory phenotype)が関与している可能性を考え、8症例のhPSCに対して、SASP因子に関連したPCR arrayを行った。PCR arrayの結果、TP53,NFkB1,p16,ATMといった細胞老化経路にかかわる遺伝子や、IL1B,IL6,CXCL12などといったSASP因子として知られるサイトカイン、ケモカインの発現がhPSCの悪性度と相関していることが判明した。またKEGG, Reactomeのデータベースを用いてpathway解析を行ったところ、Cellular senescence pathwayがともに上位にランクインした。さらに、hPSCにおける老化・SASP関連遺伝子の発現と、術前化学療法による腫瘍縮小率との関連を検討したところ、TP53、NFkB1、IL-6のRNA levelはTTRと有意に相関しており、またATMも相関傾向があった。以上より、hPSCは膵癌細胞の増殖側に関与している可能性が示唆され、その個体差は、hPSCの細胞老化に伴うSASPが関与している可能性が示唆された。
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