研究課題
難治性消化器癌の代表である膵癌細胞株8株(AsPC-1, KLM-1, MIAPaca2, PANC-1, PK59, PK8, S2-VP10, S2-013)を用いて腫瘍抑制シグナルHippo pathway の構成成分YAP/TAZの発現変化を検討したところ、8株中6株でYAP/TAZの高発現を認めとくにTAZ優位の発現パターンを定常状態で確認できた。YAP/TAZ高発現株であるMIAPaca2を用いてTAZのノックダウンを行い、細胞増殖能の低下を認めたが、western blot法でYAP/TAZの蛋白発現を検討したところYAPの代償性発現上昇を認め、膵癌の癌幹細胞マーカーとして知られるALDH1A1の発現増加をreal time PCR法で確認している。YAPのノックダウンではALDH1A1の発現増加が抑えられることより、肝細胞癌同様にTAZ→YAPへの発現がshiftすることにより癌幹細胞能を獲得している可能性が示唆された。現在、作成終了した膵癌細胞株を用いたYAP/TAZ過剰発現株を使用して同様の検討を行っている。また、高脂血症治療薬として知られるスタチンが膵癌細胞株に対して抗腫瘍効果を示し、その効果はYAP/TAZの発現変化を介していることをノックダウンならびに強制発現株を利用して確認した。さらにスタチンは膵癌細胞と免疫担当細胞のinteractionにおいてPD-1/PDL1の発現を抑制し、PD-1/PD-L1 inducerとして知られるIL-6やTNF-aなどのサイトカイン誘導も抑えることを同定した。また、in vivoでマウスの同種移植モデルを作成し、スタチンを投与したところ、腫瘍内のMDSC減少を認めた。
2: おおむね順調に進展している
膵癌細胞を利用したin vitroに関する実験結果は本研究の仮説と合致する結果がこれまで得られている。腫瘍免疫に関する検討もスタチンを利用した実験系では仮説とほぼ合致した結果が得られており、現在in vivoでの検討を進めている。全体の研究進捗としては、おおむね順調に進展していると考える。
今後は癌幹細胞能のphenotypeを確認するために、抗がん剤抵抗性やin vivoでのnude miceを用いたxenograftモデルを作成する予定である。膵癌治療へのスタチンのdrug repositionの可能性についてもIn vivoでのさらなる検討を予定している。
理由:試薬、消耗品については、医局内保管のものを使用することができた。また、旅費については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により学会開催形式がハイブリッド開催となった為、出張が無くなり、未使用額が生じた。使用計画:試薬、消耗品の購入経費に充てたい。また、最新の研究情報を得るため、及び、研究成果発表のための学会出張旅費にも充てたいと考える。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Cancer Research
巻: 80 ページ: 3222~3235
10.1158/0008-5472.CAN-19-3803
Am J Transl Res
巻: 12(9) ページ: 5955-5966