研究課題/領域番号 |
19K09181
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
廣島 幸彦 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), 臨床研究所, 医長 (60718021)
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研究分担者 |
黒滝 大翼 横浜市立大学, 医学部, 講師 (10568455)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膵癌 / 微小環境 / PDX / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
昨年度は、膵癌患者から摘出された癌組織の一部を摘出後可及的速やかに免疫不全マウスの皮下に移植し、その後継代維持することにより13系統の膵癌PDXを樹立した。また、一部のPDXについてRNAseqを実施し、SMAD4欠失型のPDXが存在することを確認した。今年度は、COVID19の影響で動物施設の使用が禁止または制限されたため、PDXの代替として、Patient derived organoid(PDO)を樹立する方針とした。膵癌患者から摘出された膵癌組織片をGrowth factorとともにMatrigel内で無血清条件下で3D培養、継代し、5系統のPDOの樹立に成功した。 膵癌微小環境を構築するマスター制御因子を同定するため、前述の膵癌間質のプロテオミクス解析から同定した膵癌間質で優位に発現変動している分子群と膵癌細胞との相互作用解析を施行し、FNとITGに関連する8つのInteractionの同定に成功し、さらに、FN, ITGの膵癌組織における発現を免疫組織化学にて検討し、FN1が膵癌間質にITGA3が膵癌細胞に発現しており、両遺伝子の共発現が膵癌患者の独立した予後規定因子であることを証明した (Hiroshima Y et al.Cancer Lett.2020 Jan 28;469:217.)。 樹立済みのPDXのRNA seqを実施し、由来リードからの膵癌細胞の遺伝子発現データを取得し、早期再発群と晩期再発群で発現変動している遺伝子群(DEGs)を同定した。DEGsでは、膵癌においてTGFβ, SMADとの関連が報告されているカルシニューリンNFATシグナリングのGOにエンリッチしていることが分かり、NFAT familyがTGFβ, SMADと関連して膵癌の早期再発に関与していることが示唆され、新たな治療標的の同定に成功した(2020年日本癌学会にて発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度はCOVID19の影響で動物施設の使用が禁止、制限されたため、マウスを用いた実験(PDXの樹立、阻害薬を用いた治療実験、自然発がんモデル(KPCマウス)樹立)を進めることができなかった。PDXの樹立に関しては、PDOに切り替えることにより、ある程度成果が得られたが、阻害薬を用いた治療実験が実施できない状況で計画を変更する必要が生じた。治療実験で得る予定であった検体の代わりに既存の検体を解析する方針とし、樹立済みのPDXのRNA seqを実施した。その結果、NFAT familyがTGFβ, SMADと関連して膵癌の早期再発に関与している可能性が示唆され、新たな治療標的分子の同定することができ、若干遅れを取り戻すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、COVID19の影響で動物施設の使用が禁止や制限されたため、PDXの代替として、PDOを樹立する方針とした。今後も新規膵癌PDOの樹立を進めると共に、RNA seq, whole exome sequenceを実施し、SMAD4を含む遺伝子の発現データ、変異データを集積する。さらに、PDOを免疫不全マウスに移植することによりPDX(O-PDX)を樹立し、SMAD4欠失型PDXが複数例確保出来た時点で阻害薬(TGFβR阻害薬;LY210976、Proteasome阻害薬;Bortezomib、新規候補分子の阻害薬)を使った治療実験を実施していく。 また、NFATfamilyの膵癌組織における発現状況を確認するため、膵癌症例のTissue microarray (TMA)を作製し、免疫染色を実施し、NFAT familyの膵癌における発現と臨床病理学的因子、予後との相関関係について検討する。 既存の膵癌PDXのRNAseqで得られた遺伝子発現データ使用し、Deconvolution解析を基にした分析パイプラインを開発し、擬似的に間質の各細胞群(免疫細胞はミエロイド系細胞のみ)のFractionを推定し、FACSの結果と比較検討する。さらに、阻害薬の治療実験が実施できた場合は、治療前後のPDXの遺伝子発現データを取得し、間質細胞のFractionの変化を上記分析パイプラインで検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響で動物施設の使用が禁止、制限されたため、マウスを用いた実験(PDXの樹立、阻害薬を用いた治療実験、自然発がんモデル(KPCマウス)の樹立)を進めることができず、代替案での研究遂行となったため。 次年度は、新規膵癌PDOの樹立を進めると共に、RNA seq, whole exome sequenceを実施し、SMAD4を含む遺伝子の発現データ、変異データを集積する。さらに、PDOを免疫不全マウスに移植することによりPDX(O-PDX)を樹立し、治療実験の準備を進める。また、NFATfamilyの膵癌組織における発現状況を確認するため、膵癌症例のTissue microarray (TMA)を作製し、免疫染色を実施し、NFAT familyの膵癌における発現と臨床病理学的因子、予後との相関関係について検討する。また、既存の膵癌PDXのRNAseqで得られた遺伝子発現データ使用し、Deconvolution解析を基にした分析パイプラインを開発し、擬似的に間質の各細胞群(免疫細胞はミエロイド系細胞のみ)のFractionを推定し、FACSの結果と比較検討する。さらに、阻害薬の治療実験が実施できた場合は、治療前後のPDXの遺伝子発現データを取得し、間質細胞のFractionの変化を上記分析パイプラインで検討していく。
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