研究課題
我々はすでにヒト食道癌細胞株(TE4、TE8)からの癌幹細胞の分離と培養に成功しており、またマイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析によりTE4、TE8癌幹細胞では非癌幹細胞に比しある種の炎症性サイトカイン受容体発現が亢進していることを確認していたため、まずTE4、TE8を用いた実験を進めた。TE4、TE8細胞(非癌幹細胞)を炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1b、TNF-α)で刺激したところ、細胞増殖・上皮間葉転換(EMT)促進や癌幹細胞性の増強といった変化は認められず、これまでに報告されている大腸腺癌・腎細胞癌・肝細胞癌に関する内容とは異なる結果であった。むしろ、TNF-α刺激では細胞増殖が抑制され、アポトーシスが亢進し、ALDH1発現レベルが低下するという結果であった。一方、世界で初めての試みと思われるが、TE4、TE8癌幹細胞を直接に炎症性サイトカインで刺激したところ、IL-6、IL-1b刺激ではsphere形成能に著変を認めなかったが、TNF-α刺激では明らかなsphere形成能の低下、アポトーシスの誘導、ALDH1発現の低下を認めた。以上の結果から、「TNF-α刺激によりTE4、TE8における癌幹細胞性が減弱する」ことが示唆された。現在、TE8癌幹細胞におけるTNF-α刺激による遺伝子発現変化をマイクロアレイ法にて解析しているところである(TE8非癌幹細胞との違いについても検討している)。また現在、ヒト膵癌細胞株(PK59)、ヒト胃癌細胞株(MKN74)からの癌幹細胞の分離と培養にも成功しており、癌幹細胞と非癌幹細胞における遺伝子発現プロファイルの違いをマイクロアレイ法により網羅的に解析しているところである。
2: おおむね順調に進展している
食道癌細胞株を用いた実験ではあるものの、当初の研究計画のとおり、癌幹細胞の分離と培養、癌幹細胞特異的な炎症性サイトカイン受容体の発現解析、癌幹細胞の炎症性サイトカインに対する反応性の解析を終了している。また、同時にヒト膵癌細胞株(PK59)、ヒト胃癌細胞株(MKN74)からの癌幹細胞の分離と培養にも成功している。すでに、次年度に計画していた研究も進行中であり、研究計画は順調に進展していると考えている。
食道癌に関しては、当初の仮説とは異なり、「TNF-α刺激によりTE4、TE8における癌幹細胞性が減弱する」という結果であったが、今後はTE8癌幹細胞におけるTNF-α刺激による遺伝子発現変化の網羅的解析を進め(TE8非癌幹細胞における遺伝子発現変化との違いについても検討)、特記すべき重要な遺伝子変化やpathwayについては適宜validationを行っていく予定である。膵癌細胞株(PK59)、胃癌細胞株(MKN74)についてもすでに癌幹細胞の分離と培養に成功しており、当初の研究計画に沿って、網羅的遺伝子解析による癌幹細胞特異的な炎症性サイトカイン受容体の発現解析、癌幹細胞の炎症性サイトカインに対する反応性の解析、炎症性サイトカイン受容体阻害薬あるいは発現制御系を用いた際の癌幹細胞の炎症性サイトカインに対する反応性の解析、ALDH1発現制御系を用いた際の炎症性サイトカインに対する反応性の解析、マウス皮下腫瘍モデルにおける腫瘍成長抑制効果の検討を進めていく。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 14件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (67件) (うち国際学会 9件)
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