研究課題
我々はすでにヒト食道扁平上皮癌細胞株(TE4、TE8)からの癌幹細胞の分離と培養に成功し、マイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析により癌幹細胞では炎症性サイトカイン受容体発現が亢進していることを確認していたため、まずTE4、TE8による実験を進めた。TE4、TE8(非癌幹細胞)をTNF-αで刺激したところ、細胞増殖が抑制され、アポトーシスが亢進し、ALDH1発現レベルが低下した。一方、TE4、TE8癌幹細胞を直接にTNF-αで刺激すると、sphere形成能の低下、アポトーシスの誘導、ALDH1発現の低下を認めた。TNF-α刺激を加えた際の遺伝子発現プロファイル変化をマイクロアレイ法により網羅的に解析したところ、非癌幹細胞では10,197遺伝子に、癌幹細胞では17,675遺伝子に±1.5倍以上のmRNA発現変化を認めた。このうち非癌幹細胞と癌幹細胞で増減が逆方向に変化した1,929遺伝子に着目してpathway解析を行ったところ、Inhibition of Matrix Metalloproteases (MMP) pathwayが上位にランキングされた。Validation解析においても、TNF-α刺激により非癌幹細胞ではMMP7, 10, 12, 13mRNA発現が減弱する一方、癌幹細胞では同mRNA発現の増強を認めた。同様にmigration assayにおいて、TNF-α刺激により非癌幹細胞では細胞遊走能が抑制される一方、癌幹細胞では遊走が促進された。以上の結果から、「TNF-α刺激により食道扁平上皮癌幹細胞のsphere形成や癌幹細胞性は減弱するが、遊走能は促進される」ことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
食道扁平上皮癌細胞株を用いた実験ではあるものの、当初の研究計画のとおり、癌幹細胞の分離と培養、癌幹細胞特異的な炎症性サイトカイン受容体の発現解析、癌幹細胞のTNF-α刺激に対する反応性の解析、TNF-α刺激時の癌幹細胞における遺伝子発現プロファイル変化の解析を終了している。すでに、次年度に計画していた研究も進行中であり、研究計画は順調に進展していると考えている。
食道扁平上皮癌細胞株に関して、「TNF-α刺激により癌幹細胞のsphere形成や癌幹細胞性は減弱するが、遊走能は促進される」という結果を得ているが、特記すべき重要な遺伝子変化やpathwayについてさらにvalidationを行っていくとともに、論文作成を進めていく。現在、ヒト膵癌細胞株(PK59)、ヒト食道腺癌細胞株(OE-33)、ヒト胃癌細胞株(MKN74)、ヒト大腸癌細胞株(HT29)、ヒト肝癌細胞株(Hep G2)からの癌幹細胞の分離と培養にも成功しており、これらの癌幹細胞においても当初の研究計画に沿って、網羅的遺伝子解析による癌幹細胞特異的な炎症性サイトカイン受容体の発現解析、癌幹細胞の炎症性サイトカインに対する反応性の解析、炎症性サイトカイン受容体阻害薬あるいは発現制御系を用いた際の癌幹細胞の炎症性サイトカインに対する反応性の解析、ALDH1発現制御系を用いた際の炎症性サイトカインに対する反応性の解析、マウス皮下腫瘍モデルにおける腫瘍成長抑制効果の検討を進めていく。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (41件)
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