研究課題
高度脂肪肝における肝再生障害は、肝切除術後の合併症の誘因となっている。肝再生過程の細胞死の増加が、肝再生障害を引き起こす。高度脂肪肝の切除後再生過程には、孤発性細胞死と広汎細胞死(壊死)が誘導される。代表者は、広汎細胞死の抑制により、高度脂肪肝での肝再生障害が軽減することを見出している。このことは、広汎細胞死の発症が、再生障害の誘因として重要であることを示している。しかし、脂肪肝再生過程での広汎細胞死の発症機序・治療法は明らかではない。代表者は、高度脂肪肝再生過程における広汎細胞死の発症に、ストレス誘導性転写因子ATF3が関与する可能性を見出している。そこで、本研究は、高度脂肪肝再生過程で生じる広汎細胞死の発症メカニズムを解明することを目的とした。具体的には、1)広汎細胞死誘導におけるATF3の役割の解明、2)ATF3作用阻害による広汎細胞死抑制法の探索、に取り組んだ。小課題1) 「広汎細胞死誘導におけるATF3の役割の解明」に関して、高度脂肪肝マウスに対し、アデノウィルスによりATF3の過剰発現を行った。ATF3過剰発現により、血漿ALT値が上昇し、広汎細胞死を惹起させるネクロプトーシスの誘導因子RIPK3の発現増強が阻害された。肝組織解析から、アポトーシスとネクロプトーシスの判別を行い、ATF3がRIPK3依存性のネクロプトーシスを誘導することを明らかにした。小課題2) 「ATF3作用阻害による広汎細胞死抑制法の探索」に関して、広汎細胞死を惹起させるネクロプトーシスを検出可能なFRETプローブを安定して発現させる培養細胞株の作製を行った。当該FRETプローブ発現細胞株で、ネクロプトーシス刺激によりFRETが検出できることを確認した。当該細胞株を用い、広汎細胞死の制御因子の探索を今後進めていく。
2: おおむね順調に進展している
高度脂肪肝切除後の再生過程における広汎細胞死の発症に、ネクロプトーシスが重要であること、その分子メカニズムとして、高度脂肪肝で増加するストレス誘導性転写因子ATF3によるRIPK3の発現誘導が重要であることを明らかにした。実際、高度脂肪肝に対し、ATF3をアデノウィルスで過剰発現させると、広汎細胞死を惹起させるネクロプトーシスが有意に増加することを見出した。また、ネクロプトーシスを検出可能なFRETプローブを安定的に発現させる肝細胞培養株を作出した。当該細胞株へのネクロプトーシス刺激により、FRETが起こることを確認している。現在までの進歩状況は、概ね順調であると言える。
昨年度までに、高度脂肪肝再生過程で生じる広汎細胞死がRIPK3を介したネクロプトーシスにより惹起されること、ネクロプトーシスの誘因としてストレス誘導性転写因子ATF3が重要であることを見出した。本年度は、ATF3によるRIPK3発現・活性化メカニズムの解明に取り組む。具体的には、RIPK3プロモーター下にルシフェラーゼを発現させるレポータープラスミドを作成し、ATF3がRIPK3の発現を直接制御するかを検討する。さらに、昨年度までに作成した、FRETプローブ安定発現肝細胞株を用い、細胞死誘導刺激下で、ATF3過剰発現・ノックダウンを行い、ネクロプトーシスへの作用を検討する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
Journal of Diabetes Investigation
巻: 12 ページ: 35~47
10.1111/jdi.13319
JCI Insight
巻: 5 ページ: e128820
10.1172/jci.insight.128820