研究課題/領域番号 |
19K09197
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井上 彬 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (90645053)
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研究分担者 |
山本 浩文 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30322184)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CTC / 培養 / 大腸癌 |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍の根源とされる癌幹細胞は、自己複製能、多分化能、造腫瘍能を有する少数の癌細胞集団で、治療抵抗性を示し、再発や転移の原因となる。癌幹細胞の既存マーカーであるLgr5を標的とした治療法が開発されたが、治療効果は乏しいと報告され、Lgr5以外にも癌幹細胞の運命を決めるドライバー遺伝子が存在すると考えられる。癌幹細胞を捉える方法としてこれまで、CD133などの癌幹細胞表面マーカーを用いた研究が進められてきたが、精度が低く十分な成果が得られていない。申請者らは、大腸癌患者の癌組織をマウスへ移植してPDXを作成し、これを継代培養して‘癌幹細胞1個からマウスに腫瘍を造る真の癌幹細胞モデル’を樹立する技術を確立してきた。その結果、癌幹細胞をコントロールするドライバー遺伝子は画一的ではなく、 個々の腫瘍で多様性があることが分かってきた。これまで、手術で切除された癌組織から癌幹細胞を同定したが、もしも血液から同様のことができれば、手術適応のない‘全身癌’の 状態でも、血液の採取だけでタイムリーに癌幹細胞を同定し、癌幹細胞のアキレス腱を攻める手掛かりが得られるかもしれない。本研究では、大腸癌患者の血液から循環血液細胞を生きたまま採取し、これを培養することで個々の患者に特異的な癌幹細胞を同定・解析することを目的とした。初年度は、大腸癌患者から10mlの採血から、血中の癌細胞を免疫染色で同定する試みを行った。試行錯誤と反復実験によりステージIVの担癌患者ではEpCAM陽性の癌細胞を捕らえることができるようになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸癌患者から血液を採取して研究する計画を院内の倫理委員会にかけて承認を得た。採血をしてから、多くのステップの最適化を繰り返した。フィコール液による濃度勾配分離では有核細胞である白血球の混在が多く、希少な癌細胞を見出すのは困難であった。フィコール液に代わる細胞分離液を見出した。それでも幾分かの白血球や血小板は混在し、これを除去するためにスライドグラス上に特殊ポリマーをコーティングした。その結果、スライドグラス上から血球成分が遊離して癌細胞が残り、overnightで培養後に、EpCAM抗体で染色すると明瞭な核小体とクロマチン増量を示す腫大した核を有する癌細胞が観察された。この際、蛍光顕微鏡下の観察では希少な陽性細胞を見つけることは困難であり、DABを基質としたperoxidaseによる発色法が癌細胞の検出に適していた。また癌細胞のスライドグラスからの脱落を防止するには、ABC法や二抗体法よりもスライドグラスの洗浄回数が少なくてすむperoxidase conjugate EpCAM抗体を用いたワンステップ法がより適していた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で血液中の癌細胞を安定して捕捉する方法をほぼ確立した。Overnightで培養した後に、染色するのみならず、癌幹細胞を濃縮するためにUltra-detach plateを用いた癌幹細胞培養を検出するスフェロイド培養を試みる。Spheroidが見られたら、遺伝子解析を行う。すなわち、CTCから出来た複数のスフェロイドを集めて全ゲノム増幅をかけて、大腸癌に特異的な遺伝子変異(KRAS, BRAF, PIK3CAなど)をサンガー法で確認する。またRNAseq 分析によって、正常粘膜、主腫瘍(原発巣)のRNAプロファイルとの違いを見出す。これによって血液中でスフェロイドを作る癌幹細胞集団の遺伝子学的な特徴を明らかとする。
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