研究実績の概要 |
申請者らは、大腸癌患者の血液から循環血液細胞を生きたまま採取し、これを培養することで個々の患者に特異的な癌細胞の同定を試みてきた。大腸癌患者で10mlの採血から血中の癌細胞を免疫染色で同定する試みを行った。ステージIVの担癌患者では血中の癌細胞を捉えることができるようになり、COVID19の影響で症例集積が進みにくい状況が続いたことから、ステージⅢでも高度進行症例にも対象を広げた。Oncoquick細胞分離液を用いて赤血球、白血球、血小板を除去しても、残存する血球成分は依然と多く混在し、特殊ポリマーをコーティングしたスライド上で培養することによりスライドグラス上から血球成分が遊離して癌細胞が残り、EpCAM抗体で染色すると明瞭な核小体とクロマチン増量を示す腫大した核を有する癌細胞が観察できるようになった。免疫組織学的染色は、染色過程で細胞の脱落を防ぐためワンステップ法を適用した。CTCの培養は9例で成功した。このうち6例について形態的に癌細胞とみられる培養細胞を顕微鏡観察下にピペットマンで回収しDNA抽出をおこなった。全ゲノム増幅後に大腸癌に特徴的な遺伝子変異 (KRAS, BRAF, PIK3CA)についてサンガーシークエンスで変異検索を行ったが、いずれも変異を認めなかった。一方、これら6例の原発腫瘍では3例でKRAS変異を認めており、CTCの遺伝子変異結果と一致しなかった。原発巣の遺伝子変異は不均一な集団の中で優勢な遺伝子変異が反映されるので、CTCとは必ずしも一致しないと考えられるが、顕微鏡下にピペットマンで癌細胞を拾い上げる際に血球成分が混入した可能性を否定できない。癌細胞だけを正確に拾い上げることは容易ではなく、新たに細胞回収用のマニピュレーターを導入したので、今後は培養細胞を正確に拾い上げてその本態を明らかとする。
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