研究課題
令和1年度は、まずヒト肝細胞癌細胞株からの癌幹細胞の抽出・培養を試みた。種々のヒト肝細胞癌細胞株をALDEFLUOR kit (STEMCELL Technologies Inc)で処理したところ、Huh-7、Hep-G2において、ALDH高発現細胞群が確認できた。Huh-7、Hep-G2を用い、ALDH高発現細胞をsorting後、sphere形成能を有する細胞のみを分離し、癌幹細胞を培養することに成功した。また、樹立したHuh-7由来癌幹細胞株が親株に比して、CDDPに対する耐性を有することを確認した。現在、Huh-7、Hep-G2由来癌幹細胞株と親株での遺伝子発現をmicroarrayを用いた網羅的解析により比較検討し、種々のイオン輸送体が癌幹細胞において高発現していることや、選択的阻害剤が癌幹細胞特異的に増殖抑制効果を示すか否かを検証中である。同時に、他の消化器癌細胞株(HT29)においても、ALDEFLUOR kitを用いALDH高発現細胞をsorting後、癌幹細胞を培養することに成功した。HT29由来癌幹細胞株は親株と比較し、ALDH1のmRNAレベルが上昇していた。現在、HT29由来癌幹細胞株の遺伝子発現をmicroarrayを用いた網羅的解析により解析中である。一方で、消化器癌におけるANO9 (Ann Surg Oncol. 2020)、LRRC8A (Am J Pathol. 2019)、TRPV2 (Sci Rep. 2019)、Sodium iodide symporter (Gastric Cancer. 2019)などのイオン輸送体の発現機能解析・臨床病理学的意義を検証するとともに、低浸透圧刺激後の温度・イオン輸送体・水輸送体を介する細胞容積調節機構を解明した(Int J Oncol. 2019)。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画のうち、ヒト肝細胞癌細胞株を用いた癌幹細胞の作製は、ほぼ終了している。また、消化器癌における種々のイオン輸送体・pH制御因子の機能解析も進展しており、研究成果は既に学会で発表し、英文雑誌にも投稿・掲載されている。現在、肝細胞癌幹細胞株において高発現するイオンチャネルを網羅的に解析し、それらの選択的阻害薬の抗癌幹細胞効果をin vitro実験系で検証している。また、他の消化器癌細胞株を用いた癌幹細胞の作製と、高発現する遺伝子の網羅的解析も進行しており、研究目的・研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
次年度以降は、肝細胞癌細胞株で特異的に高発現するイオン輸送体をターゲットとして選択し、その阻害剤の癌幹細胞特異的な増殖抑制効果をさらに検証するとともに、癌幹細胞内イオン濃度変化を介する細胞周期・アポトーシス制御機構の解明を試みる。また、ヒト肝細胞癌組織における癌幹細胞マーカーの発現解析と、イオン輸送体発現との相関性を解析する。更に、in vivoにおける、阻害剤・RNA干渉を用いたイオン輸送体制御による皮下腫瘍成長抑制効果について検証するとともに、各条件の皮下腫瘍から癌幹細胞を抽出し、self-renewal capacityを解析する予定である。
研究計画通りに研究費を適正に使用し順調に研究成果が得られている。今年度は、最終的に既受領額と支出累計額に17,077円の差が生じた。当研究の研究費として大変貴重であり、次年度に繰り越して適正に使用したい。研究計画として別項に記載している。今後は癌幹細胞の遺伝子・蛋白発現解析を行うため試薬の購入に充てる。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (12件)
Ann Surg Oncol.
巻: ー ページ: ー
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