研究実績の概要 |
A:ALDH1陽性細胞の癌幹細胞としての妥当性の確認
以下のように、ALDH1陽性細胞の癌幹細胞としての妥当性を確認した。
食道扁平上皮癌は5年相対生存率37.2%と予後不良な疾患であるが、中でも根治切除不能な局所進行食道癌の予後は不良である。この状況を改善する何らかの新規治療戦略が必要とされており、化学放射線療法による抗腫瘍効果のさらなる改善が急務である。近年、消化器癌の治療抵抗性の原因としてTumor-initiating cell (TIC)の存在が報告されている。我々はこのTICに着目し、本研究はTICを標的とした食道癌に対する新規治療戦略を構築することを目的とした。まず食道扁平上皮癌における至適なTICマーカーを検討したところ、Aldehyde dehydrogenase 1 (ALDH1)陽性の食道扁平上皮癌細胞はSOX2,Nanog発現が上昇しており、陰性細胞に比べ、高いスフェア形成能、浸潤能、腫瘍形成能、化学療法および放射線治療に対する抵抗性を示した。siRNAを用いてALDH1発現を抑制すると、SOX2,Nanog発現および上述のTIC特性の低下を認め、ALDH1は食道扁平上皮癌における有用な機能的TICマーカーと考えられた。ALDH1抑制により放射線治療抵抗性の改善を認めたため、我々はこれまで断酒薬として用いられてきたALDH阻害薬であるジスルフィラムに着目した。ALDH1陽性細胞をジスルフィラムおよび銅(DSF/Cu)で処理することにより、その放射線感受性はin vitroおよびin vivoで大幅に改善し、ジスルフィラムは食道扁平上皮癌に対する放射線増感剤として有用と考えられた。この過程でAktのリン酸化が抑制されていることが示され、この治療効果は主にPI3K/AKT経路を介していると考えられた。
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