研究実績の概要 |
申請者は、癌/精巣抗原(Cancer/testis antigen, CTA)と胃癌の原因菌であるHelicobacter pylori (Hp)の関連性を明らかにしてきた。さらに、Hp感染により一部のCTAは悪性形質を獲得する前(前癌)から発現することを明らかにした。すなわち、CTAはがん免疫療法のみならず、前癌診断に有用な標的となりうる。しかしながら、CTAを発現する前癌病変の詳細ならびに発癌との関連性については未だ明らかにされていない。本研究課題では、臨床胃癌症例の前癌領域におけるCTA、特に発現率の高いKitakyushu lung cancer antigen-1 (KK-LC-1)を中心とした発現様式を解析し、各前癌病変におけるCTAの発現と発癌の関連性を明らかにする。この証明により、CTAを利用した胃癌の高精度リスク診断の開発が可能となる。 日本における胃癌患者の90%以上は、Hpによる慢性炎症が発癌の原因と考えられている。また、腫瘍部だけではなく、非腫瘍部においてもHp感染によるダメージを受けており、前がん状態だと考えられている。当該年度は、116例の胃癌患者の胃の腫瘍部および非腫瘍部における各癌/精巣抗原の遺伝子発現について検討した。腫瘍部における各CTAの発現率は、MAGE-A1, MAGE-A3, MAGE-A4, NY-ESO-1, SSX4およびKK-LC-1で29.7%, 32.2%, 19.5%, 13.6%, 17.8%および78.0%であった。一方、非腫瘍部におけるCTAの発現率は、MAGE-A1およびKK-LC-1それぞれで1%および58.5%であった。そのほかの上述したCTAの発現は認められなかった。 以上のことから、KK-LC-1は前癌病変を反映するマーカーであることが示唆された。
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