研究課題/領域番号 |
19K09229
|
研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
有田 通恒 東邦大学, 医学部, 助教 (80307719)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | EMAST / 低酸素 / p53 / マイクロサテライト |
研究実績の概要 |
3カ年で計画した本研究ではこれまで、進行性大腸癌の悪性度と相関する表現型EMASTを実験的に高効率に誘導できるよう、より厳密なEMAST誘導条件の検討を行ってきた。EMAST誘導には「低酸素」と「p53変異」の二条件が必須であるが、これに加えて初年度は、「p53変異による低酸素性EMAST誘導は細胞株や大腸癌に固有の現象ではないこと」と、「p53の転写因子としての機能欠失が必要なこと」を見いだした。これら知見をもとに、本年度は、p53変異の種類と低酸素性EMAST誘導との関係を詳細に検討するため、大腸癌で出現頻度の高いp53変異体の作製を計画した。 ところで、作製した各変異体のEMAST誘導への関与を評価するには、変異体ごとにEMAST発生の有無を検出しなければならない。現行のEMAST陽性細胞の検出法はクローニングとキャピラリー電気泳動が不可欠なため、煩雑で時間を要する。加えて、世界規模のCOVID-19まん延対策に研究資源が割かれる中で本研究を押し進めるには、従来法に代わる簡便かつ迅速なEMAST検出法確立の優先度が飛躍的に高まった。そこで、本年度は計画を一部前倒して、GFP発現の有無でEMAST発生を検出するためのレポーター細胞株SW620亜株の作製を行った。 レポーター株作製では、out-of-frameとなるように配列長を調整した4塩基繰返し配列の下流にGFPを、上流にプロモーターと開始コドンを連結したカセット配列を用いる。このレポーターカセットを、SW620の内在性4塩基繰返し配列と置換することでレポーター株とする。すなわち、本工程は1) レポーターカセットの作製、2) 組換え用相同配列の付加、3) CRISPR-Cas9によるknock-inとセレクション、4) 目的のレポータークローンの選別からなり、現在、3) が進行している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
計画では、作製した種々のp53変異体について、EMAST発生に重要な変異の評価に着手している予定であった。しかし、p53変異体については作製すべき変異の選別に留まっている。遅れの一端は、p53変異体評価法の立ち上げを優先したことにある。作製した変異体がEMAST発生に関与しているか否かを知るには、各変異体を導入した細胞株を低酸素で処理した後、変異体ごとに少なくとも50程度のクローン細胞を単離して、EMAST発生の有無を判定する。この工程には1ヶ月以上の時間を要する。また、判定にはDNAシーケンシング用キャピラリー電気泳動装置を用いるが、我々の施設では本装置を保有していないため外注で行う。したがって、従来法では変異体の評価だけで時間と解析費用が嵩む。これらの問題を解決するため、当初の計画を一部変更して評価法の確立を優先した。上記に加えて、本年度は、コロナ禍により一部の試薬・機器類の供給が不足したことも遅れの要因となった。レポーター株の完成まであと僅かである。株が完成すれば遅れは挽回可能と考えられるが、当初の計画からの大幅な遅れは否めない。したがって、上記の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
EMASTの新規検出法の確立を急ぐが、検出法の瑕疵はその後の進捗を妨げる。これを避けるため、新規法が正しく動作することを慎重に評価する。そこで、新規法確立の成否は次の2点で評価する。1)out-of-frame型レポーターカセットの導入部位として選択した4塩基繰返し配列のマイクロサテライト・ローカスで遺伝子が発現しうることと、2)EMAST発生条件が整えば、レポーターが駆動しGFP発現が陽性となることである。 これまでの検討から、ゲノムに散在する4塩基繰返しマイクロサテライトでの異常頻度は、臨床例でも細胞株を用いた実験例でも、調べるlocusによって異なることが分かっている。そこで、レポーター株の作製にあたっては、EMAST検出効率の高いlocusにレポーターカセットをknock-inする。ところが、4塩基繰返しマイクロサテライトは遺伝子内には存在しないため、選択したlocusによってはクロマチン構造が発現抑制的に働き、組み込んだプロモーターGFPカセットが発現しない可能性もある。これを避けるため、1)を検証する。すなわち、out-of-frameではなくin-frameの4塩基繰返し配列にGFPを連結したカセットを、レポーター株と同じlocusにknock-inした株を作製し、GFPの恒常的な発現を確認する。適切なframeで組み込まれたGFPならば発現するlocusであることが確認できたら、次に2)を検証する。すなわち、作成したレポーター株のEMAST原因遺伝子MSH3をRNAi法で安定的にknock-downし、この条件下でGFP陽性細胞が出現することを確認する。これら2点を検証できた株をレポーター株として新規検出法に用いる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅れにより、当初計画した経費のうち一部が発生しなかったために残額が発生した。実施しなかった研究計画と該当する経費は次年度使用額として翌年度に持ち越し、主に物品費として使用する。その後、翌年度分として請求した助成金を当該年度計画に従って、物品費および旅費として使用する予定である。
|