本研究では、EMAST発生におけるp53分子の役割を解析するとともに、EMASTのハイスループット検出法の開発を進め、以下の進捗と新たな課題を得た。 1)EMAST発生におけるTP53分子の役割 前年度の研究結果をもとに、我々は「EMAST配列異常の修復効率にp53が関与する」という仮説を立てた。EMAST配列を含むマイクロサテライトの異常修復はDNAミスマッチ修復 (MMR) 機構が担うことは周知だが、p53がMMRに関わることは知られていない。そこで、クロマチン免疫沈降法を行い、EMAST誘導条件におけるマイクロサテライト配列へのp53の結合を調べた。その結果、調べた1塩基、2塩基、ないし4塩基反復配列ではいずれもp53の結合が認められた。さらに、EMAST誘導条件である低酸素下では、一部の4塩基反復配列で特にp53結合が強まることも分かった。これらは、EMAST誘導でp53が担う役割の分子機構解明の大きな手がかりとなる知見である。 2)ハイスループットEMAST検出系の開発 EMASTの定義のひとつ「4塩基反復配列の異常」は「配列長の異常(配列長の短縮や伸長)」として検出される。反復配列での短縮や伸長は繰り返し単位で起きやすいため、4塩基反復配列の場合は4塩基の挿入もしくは欠失が生じる。この性質を利用して、本研究では、4塩基反復配列と蛍光タンパク質 (GFP) 遺伝子を連結させてゲノムに組み込んだ「EMASTレポーター細胞株」の作製を試みた。しかし、本来であればGFP遺伝子が発現しないEMASTレポーター細胞株でもGFP発現が検出された。原因として、意図せぬ翻訳開始点が考えられたため、EMASTレポーターの遺伝子構成を一から見直した。系の確立には至らなかったものの再構築の目処は立っており、既に着手している後続の研究計画に寄与する成果である。
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