臓器移植における最大の課題である拒絶反応の内、急性拒絶反応の制御法の開発により移植成績は良好な傾向となった。一方で、慢性拒絶反応に関しては依然制御できない状態であり、移植臓器不全の大きな要因となっている。微小血管の内膜肥厚や微小血管炎が一因となる慢性拒絶反応に対して、血管内膜トロンボモジュリン(以下、TM)の減少が慢性拒絶反応の基盤となるのではと考えた。現在、血管内皮に元々存在するTMは炎症や物理的損傷によって部分的に剥離されると血液凝固を抑制する機能は果たさなくなると考えられている。構造が変化したTMは抗凝固作用を持たないことと、静脈投与したリコモジュリンがDIC急性期スコアや凝固系マーカーを改善させた等の報告から、外から補充されたTMが炎症や損傷を受けた血管内皮や血栓等に生着すること(固相化)で効果を発現している可能性が高い。また、高濃度で血液中に投与されることによる効果も否定できない。しかし、その生着部位やどのドメインが効果発現の中心となっているか不明のままである。TMの詳細な作用機序を解明するために、TMを構成する3つのドメイン(D1~D3)を用いて、TM生着部位の特定と各ドメインによる抗凝固能と抗炎症作用を評価する。2021年度はTMの構成ドメインによる生着延長期間測定と移植心の病理評価を行い、D1が最も生着延長効果を示し、FACSを用いて制御性T細胞の誘導を確認した。さらに、D1投与群の移植心の病理染色では心筋構造が保たれ、面積染色では制御性T細胞の心筋内集積を確認した。以上の内容を再実験し、論文として報告し掲載された(Transplant Proc. 2022; 54: 487-491.)。
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