研究課題/領域番号 |
19K09252
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
國原 孝 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80725268)
|
研究分担者 |
岩崎 清隆 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20339691)
加瀬川 均 昭和大学, 医学部, その他 (60535467)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 大動脈二尖弁 / 大動脈弁形成術 / 交連間距離 / 拍動循環シミュレータ / 大動脈弁閉鎖不全症 |
研究実績の概要 |
大動脈弁閉鎖不全症に対する弁形成術は未だ広く普及しておらず、その遠隔成績の向上が望まれるが、とりわけ二尖弁の成績が劣り、その原因として術後狭窄の発生と形成後の最適な交連角度が不明であることが挙げられる。これらを解決すべく本研究では人工血管にウシ心膜を用いて様々な交連角度の2尖弁を形成し、最適な交連角度を決定し、その交連角度における最適な交連間距離および交連高を決定することを目標としている。 1) 初年度はまず二尖弁モデルの確立と、拍動循環シミュレータを用いて弁機能、弁圧力損失、弁開放面積、弁開閉運動を検証し、最適な交連角度を決定することを目標とした。6例の術後CTデータより、ブタ心膜で大動脈弁尖を再現し、これを人工血管に縫着して大動脈基部形態を再現し二尖弁モデルを作成した。するとモデルは作成可能であり、回路条件の設定も可能であり解析は可能と判断した。 2) 二年度はこのモデルを用い全周性の弁輪縫縮と癒合弁尖側のみの弁輪縫縮の効果に関する実験を拍動循環シミュレータを用いて行ったが、弁逆流の制御には有効であったが、弁開放の改善には有意差を認めなかった。そこでこのモデルを用いて癒合弁尖側のvalsalva洞縫縮の効果を検討するべく実験を行ったところ、弁逆流量は有意に減少し、弁開放も有意に改善を認めた。我々が追求していた二尖弁の弁逆流と開放の双方を改善する方として、癒合側のvalsalva洞縫縮が有効であることを示唆する結果であり、当初の目的を達成できたと考えている。 3) 最終年度は交連間距離を短縮することによる弁開放改善効果を検討してきた。その結果、交連間距離24mmを20mmまで短縮することにより圧較差が減少し、弁口面積が増加することが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【背景】大動脈弁閉鎖不全症に対する弁置換手術には様々な合併症が伴い、弁形成術に期待が集まっているが、未だ広く普及していない。そこで大動脈弁形成術の遠隔成績の向上が望まれるが、とりわけ二尖弁の成績が劣り、その原因として術後狭窄の発生が挙げられる。 【目的】術後狭窄を避け、かつ最適な血行動態を提供する二尖弁における最適な交連間距離を探求すること 【方法】24mmのバルサルバ人工血管にウシ心膜を用いて交連角度180度、free margin length 30mm、geometric height 20mmの二尖弁を作成する。Free margin に4mmのcentral plicationを行い、やや狭窄気味の二尖弁とする。上記二尖弁を6例ずつ作製して拍動循環シミュレータに装着し、生理的拍動血流および血圧環境下(平均流量5.0 L/min、大動脈圧120/80 mmHg、心拍数70/min)で、弁前後圧較差、弁逆流量、弁口面積を三回ずつ測定し、その平均値を記録する。ついで交連間距離を2mm間隔で短縮し、同様の測定をし、最大8mmまで短縮する。 【結果】順行性流量、逆流量は交連間距離を短縮しても変動しなかった。最大圧較差、平均圧較差ともに4mm短縮まで有意に減少したが(p<0.05)、6mm, 8mmと短縮してもプラトーに達した。弁口面積も4mm短縮まで有意に増加したが(p<0.01)、6mm, 8mmと短縮してもプラトーに達した。 【結論】交連間距離を短縮することにより圧較差が減少し、弁口面積が増加した。今回は交連間距離のみ短縮したので、人工血管の変形も考慮にいれなくてはならない。今後は最適な血行動態を提供するリングの開発を目指すことが望まれる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究前半では、二尖弁モデルと拍動流回路実験を用いてValsalva洞縫縮の有効性を示すことができた。その成果は2021年10月開催の欧州心臓胸部外科学会で発表し、原著論文がEuropean Journal of Cardio-Thoracic Surgeryに掲載された( Eur J Cardiothorac Surg. 2021;60:859-64.)。今後弁尖縫縮を減らす方法の一つとして、実臨床での応用を目指し、より簡便で一般的に応用できる手術手技として確立する方法を検討したい。 研究後半では、交連間距離を短縮することによる弁開放改善効果を第74回日本胸部外科学会定期学術集会で発表した。追加実験を行い、最終的なデータは2022年10月開催予定の欧州心臓胸部外科学会で発表し、原著論文をEuropean Journal of Cardio-Thoracic Surgeryへの投稿を目指していく。 今後はMicro CTを用いて3次元構築して有限要素解析法によりこのモデルにおける弁尖に生じる応力値を解析していきたい。ついで今回見いだした最適な交連間距離を基にして最適な形状を模した大動脈リングの開発にもつなげていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定より多少研究に遅れが生じたため次年度へ繰り越しとなったが、次年度では解析ソフトおよび実験用消耗品などの購入に充てる予定である。
|