「網羅的遺伝子解析による大動脈疾患へのプレシジョンメディシンの創出」をテーマとして 情報・検体収集、疾患遺伝子解析研究を展開した。 自験17例のMS症候群・類縁疾患患者の遺伝パネルシークエンス検査(かずさDNA研究所における、保険診療受託検査)を利用し、25%にFBN1遺伝子変異を同定し得た。心臓大動脈疾患が顕性遺伝の家族集積を示す場合はもちろん、たとえ家族歴や教科書的な特徴的身体所見(高身長、眼症状、くも指等)がなくても、若年発症例(50歳未満発症)であれば、FBN1遺伝子を中心にした心大血管形態を支持する弾性線維構造やシグナル異常の関与しうる可能性が明らかになってきた。そのなかで興味深い結果としては、 ①診断未確定例:古典的または若年MSであっても75%は、心大血管シークエンスパネル検査(保険診療D-0006-4)では診断が未確定であった。 ②FBN2変異を伴うMS類縁疾患:従来動脈瘤形成の報告のないfibrillin‐2(FBN2)のVUS バリアントが同定された。バリアントの位置と変異の影響でCa結合EGF様モチーフを構成するS-S結合に影響して、蛋白機能を障害すると予測される。 ③眼・神経限局型の存在:心大動脈病変はなく、眼症(水晶体脱臼、網膜剥離)、骨格異常と発達障害を主徴とする患者にFBN1のバリアントを検出し得た。 FBN1遺伝子は多型に富む遺伝子で、VUSとして病原性判定が保留になっている症例も多い。自験例でFBN1変異が検出された心大血管疾患例では、高身長、骨格変化を欠くことも多く、変異の生物学的効果には民族差も予想される。FBN1変異が眼症、神経発達が主徴の例も経験し、我が国の心大血管疾患患者の個別化医療を進める上で、重要な役割を担うと考える。FBN1を中心とする細胞外マトリクスのシグナル制御機序には、ゲノム・オミックス情報を駆使した解明が必要である。
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