胸部大動脈手術後の脊髄障害による対麻痺は最悪の合併症である。胸部下行、胸腹部大動脈瘤に対する対麻痺治療としては臨床的に行い得るのは1)脊髄液ドレナージ、2)動脈圧を高く保つ2つである。今回、拍動流による下半身動脈潅流を行い、下半身の動脈圧をあげて脊髄動脈の側副血行路の血流を良好にして脊髄虚血を防ぐ方法と、遮断した大動脈内の4℃冷却血液を注入して脊髄を保護する方法の、実験的論証を行うことを目的とする。今回の研究で、我々は、大動脈遮断による脊髄虚血に対し、成犬を用いた脊髄虚血再灌流障害モデルで、1)下半身潅流が拍動流下での脊髄血流と運動誘発電位(MEP)を測定し、2)冷却による脊髄保護効果を検証することとした。 結果は以下の通りである。下半身灌流を拍動流は、循環に与える影響が良好であり、大動脈遮断中のMEPを測定にて、60分の時点でMEPは全く低下しないため、虚血が発生していないと考えられた。追加で瀉血モデルの適応を行ったが、体外循環を使用している場合、瀉血をしたとしても、循環が維持され、MEPの変動は少ないことが判明した。また、体外循環を使用しない瀉血モデルでは、体外循環の流量は低下とMEPも低下するが、全身への影響が大きいことが判明した。結果、いずれのモデルも研究評価には使用しにくいことが判明した。そこで、単純な瀉血および返血と、背部の加熱と腹部の冷却を追加したモデルをラットモデルに準じて作成した。これは、全身的影響が低く、且つ脊髄虚血とその保護に関する評価が可能でMEP変動の評価も良好であった。温度管理が繊細なこのモデルにさらに冷却血液の注入することは可能だが、温度変化の評価が困難であった。モデルの複雑性が、温度変化による脊髄保護の評価を困難にすると考えられた。現時点では、ヒトと同様のシステムで虚血を作成できない動物における血液冷却の意義の評価は難しいと考えている。
|