研究課題/領域番号 |
19K09280
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
平方 佐季 久留米大学, 医学部, 助教 (60597425)
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研究分担者 |
林 真貴子 久留米大学, 医学部, 助教 (70725027)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / 大血管 / 分子生物学 / 内皮細胞 / 炎症細胞 |
研究実績の概要 |
大動脈解離は突然発症する致死性疾患である。分子病態が未解明であることが診断・治療法開発の妨げとなり、解明が急務である。申請者は、解離病態の解明を進める中でStat3が細胞ごとに異なる機能を持ち、組織破壊・修復の双方を制御することを発見した。本研究では解離病態における血管内皮のゲートウェイ機能の関与を検討する。炎症での白血球浸潤は炎症組織でのケモカイン発現、白血球の内皮細胞への接着、内皮細胞の透過性亢進で起こる。 解離フェノタイプに影響を及ぼす様々な分子介入を加えたマウス解離モデルで内皮細胞関連因子の遺伝子発現を検討した結果、解離刺激で内皮細胞の活性化因子、内皮リモデリング因子、インテグリン活性化因子、炎症細胞接着因子、血管新生因子の発現が促進され、正常血管維持因子アンジオポエチン1が抑制された。これらの変化は、解離促進因子(MRTF-A、IL-17)のノックアウトで消失した。したがって、解離促進に働くIL-17、MRTF-Aは内皮のバリア機能を低下させると考えられた。また、解離発症が抑制されるIL-17ノックアウトでは内皮接着因子PECAM-1および正常内皮構造形成因子PLVAPの発現が亢進しており、内皮バリア機能が維持されることが示唆された。大動脈保護作用を示すラパマイシンはPECAM1、LYVE1、Podoplaninの発現を亢進させており、やはり内皮細胞の接着を促進することが示唆された。 これらのことから解離病態では血管新生応答が起こるとともに内皮のバリア機能が低下することが示唆された。血管保護作用を示す分子介入の一部は、血管新生応答をより促進したり、それに加え内皮の接着およびバリア機能維持に働くとものもあると考えられた。内皮のバリア機能制御は解離病態で重要な意義があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大動脈解離における内皮の機能を明らかにするために、ヒト解離組織を観察したところ、解離部位周辺の微小血管内皮細胞でSTAT3が活性化していることを見出した。マウス解離モデルにおいて内皮細胞に着目した観察研究を実施した。包括的アプローチとしてトランスクリプトーム解析データから内皮機能関連遺伝子を抽出して検討したところ、解離刺激早期に血管の病的リモデリングに関わる遺伝子群の発現が変化し、また解離発症直前には細胞間相互作用に関わる遺伝子群の発現が変化することが明らかになった。これらの変化は、解離病態において内皮が炎症細胞や液性因子に対するゲートウェイ機能を果たすとの本研究の仮説に整合的と考えられた。さらに介入を加えた解析により解離病態では血管新生応答が起こるとともに内皮のバリア機能が低下することが示唆され、血管保護作用を示す分子介入の一部は、血管新生応答をより促進したり、それに加え内皮の接着およびバリア機能維持に働くとものもあると考えられた。内皮のバリア機能制御が解離病態で重要な意義があるという、解離病態におけるゲートウェイ機能変化の意義が明らかとなった。また、マウス解離モデルでは、解離発症前にフィブリノーゲンが血管壁局所に沈着することがわかり、その部位に一致してIgGが沈着していることから解離発症に先立って血漿成分が血管外に漏出することが考えられた。B細胞欠損マウスでは解離発症が少なく、B細胞欠損マウスにIgGを投与すると解離が促進され、既報では、大動脈瘤組織で抗フィブリンIgGが炎症と組織破壊を促進することが示されている。内皮バリア機能低下によりフィブリノーゲン漏出、フィブリン沈着が生じることで抗フィブリンIgGの漏出と組織沈着がおこり、炎症と組織破壊が促進することで解離が発症・進行するという新たな観点が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
内皮細胞のゲートウェイ機能として、当初の仮説である炎症細胞浸潤の制御に関する検討を行う。内皮バリア機能低下によるフィブリノーゲン漏出、フィブリン沈着、抗フィブリンIgGの漏出と組織沈着により炎症と組織破壊が促進し、解離が発症・進行するという新たな観点に基づき、内皮細胞のゲートウェイ機能を制御するメカニズム、解離病態におけるゲートウェイ機能変化の意義、その過程におけるSTAT3の役割を明らかにして行く。研究代表者が所属する研究チームでは、多面的なアプローチにより解離病態解明に取り組んでおり、内皮バリア機能制御により解離病態がどのように変化するか、内皮細胞以外の炎症細胞や平滑筋細胞との関連を含めたメカニズムを解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)初年度で十分な手技を確立できたことで実験回数を減らすことができ、使用する試薬などの節約が可能であったため。 (使用計画)研究を今後さらに進展させる上で、マウスの購入や飼育費、組織培養試薬や生化学実験の消耗品費用及び人件費として使用する。
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