肺腺癌細胞株・悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma;MPM)細胞株を複数種類用い、癌の浸潤能を評価する手法である3次元in vitroモデルの2層化コラーゲンゲル半球(double-layered collagen gel hemisphere;DL-CGH)法に応用することで細胞株を浸潤能の有無で分類し、浸潤能の高い細胞株において発現が亢進している遺伝子を絞り込むことができた。肺腺癌・MPM細胞株の浸潤能の高い細胞株において、浸潤能が低い細胞株よりも100倍以上遺伝子発現が亢進しているものを絞り込んで検索したところ、候補遺伝子として「BEX1」が挙げられ、浸潤能の高い細胞株であるA110L(肺腺癌)・MSTO-211H(MPM)において、浸潤能の低い細胞株であるA549(肺腺癌)・NCI-H28(MPM)よりもBEX1の発現量が亢進していることが示された。さらにA110LとMSTO-211HにおいてBEX1の発現を一時的に抑制したところ、A110L・MSTO-211Hともに浸潤能が著明に低下している様子が観察できた。さらに、A110L・MSTO-211Hとも浸潤を呈する際は細胞の形態が外に向けて樹状の突起を伸ばしていく様子が観察できたはずが、BEX1の発現抑制に伴い樹状突起の形成が見られなくなり、細胞増殖能についてもBEX1の抑制により細胞増殖は有意に低下した。 これらの結果から、BEX1は樹状突起を形成して浸潤能を示すこと、細胞増殖能にも関与する遺伝子である可能性が高いことが示唆された。 しかしこれまでの報告でBEX1と肺腺癌に関する検討を行った報告はなく、実臨床におけるBEX1と予後に関する関係性は不明である。現在、臨床検体を用いた検討により、BEX1の発現の有無と浸潤能(PL因子や脈管侵襲因子など)・予後との関連を検索している。
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