研究課題
本研究は腫瘍幹細胞マーカーであるDCLK1の阻害が悪性胸膜中皮腫細胞に抗腫瘍効果を及ぼすことに着目し、悪性胸膜中皮腫において同タンパク質を抑制することによる抗腫瘍効果を検討し、さらに同タンパク質を標的とする薬剤を独自に構築する技術でスクリーニングし、当該疾患に対する新規治療法の確立を目指すものである。悪性胸膜中皮腫細胞株におけるDCLK1アイソフォームの発現パターンは細胞株によって異なっている。一方で正常中皮細胞株ではDCLK1の発現を認めなかった。DCLK1阻害による腫瘍増殖抑制効果は予備実験により明らかとなったが、アイソフォーム選択的に阻害した場合の効果は不明であった。そのため、令和元年度の研究でアイソフォーム選択的にsiRNAをデザインし、アイソフォームを選択的に阻害したよりもアイソフォームを同時に阻害することで細胞増殖抑制効果が認められることを明らかにした。令和3年度は、令和2年度に始めた実験を引き続き行った。siRNAによるDCLK1阻害後の細胞増殖抑制効果の機構を解明するため、バイオインフォマティクス解析を行ったが、細胞増殖に関係する有力な候補の分子を絞り込むことが困難であった。また、DCLK1発現ベクターを作成し正常中皮細胞株に導入する実験を進めたが、発現ベクター導入後の正常中皮細胞において細胞増殖の亢進は不明瞭であった。DCLK1阻害による腫瘍増殖抑制効果はある程度認められたものの、細胞増殖抑制効果の機構を解明するには至らず、DCLK1による正常中皮細胞の細胞増殖亢進を明確に示すことが困難であったため、本研究ではin vitroでのDCLK1アイソフォーム同時阻害による細胞増殖の抑制を示したまでで終了した。