最終年度は、癌細胞におけるSPP1発現の制御機構について、更に詳細に解析を進めた。すでに単離していた約10kbの上流領域から、内在性のSPP1の発現に必要となる制御領域の絞り込みを行った。さらに、各種転写調節因子が結合しうるDNA配列を欠損または変異挿入した制御領域にluciferaseをつないだレポーターを用いて、dual-luciferase法にて発現制御にかかわる領域と結合する転写調節因子の探索を行った。 SPP1は多くの癌の悪性進展の過程に共通して上昇することが知られている。癌細胞におけるSPP1の発現調節機構の解明は、これまでごく限られた情報しか報告されていない。今回新たに同定した領域や関与する転写調節因子についての新規情報は、癌転移の超早期診断や画期的治療薬の創出にむけた基盤情報になると期待できる。さらに、早期肺腺癌患者の術後の予後とSPP1Cの高発現との関係の調査をさらに進め、58例のうち再発・転移に至った4例全てでSPP1Cが高発現していることを確認し、米国癌学会で発表した。 期間全体を通じて、癌細胞におけるSPP1の発現調節にかかわる制御領域の単離に成功した。得られた情報は、癌の悪性進展のしくみの理解や早期癌の予後予測診断に大きく役立つものと考えている。
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