研究課題
羊膜は出産後に通常廃棄されるが、再生医療分野での新しい生体由来の素材として応用され始めている。一方で、呼吸器外科領域での使用を目的とした研究や報告はほぼ皆無である。羊膜は、悪性胸膜中皮腫に対する胸膜剥皮術後に起こる胸膜の広範欠損のみならず、骨髄移植後や肺移植待機患者に起きる致死的なair leak syndromeへの全肺被覆用材として、さらには気胸を含む通常の呼吸器外科手術時の胸膜損傷に対する部分的な胸膜被覆、気管・気管支吻合部の創傷治癒促進など、呼吸器外科分野における再生医療への臨床応用が可能となる。本研究では、当施設の羊膜バンク(カテゴリーI)との共同研究により、羊膜の抗炎症、組織修復、癒着防止作用に着目し、呼吸器外科領域での有効性を検証した。まず、ラットの壁側胸膜を焼灼し開胸胸膜癒着モデルを作成した。次に肺表面に-80℃で保存された気質羊膜を張り、癒着防止効果を調べた。病理学的に一部に癒着が軽度の部分がみられたが、有意とはいえず、ヒト羊膜を被覆しても癒着防止効果はなかった。羊膜付着部には強い炎症性癒着があり、焼灼によるものの他に異物反応による癒着の可能性も考えられた。次にラットの呼吸運動による胸膜のスライドの距離が短いことから、呼吸運動による肺表面の移動距離の大きな大型動物である、ブタを開胸した胸膜癒着モデルを作成した。そのモデルでヒト羊膜を開胸部の癒着発生部分に貼り付けて置き、経時的な変化をみたが、やはり強い癒着が起きた。この結果から、異種の凍結羊膜は、異物反応あるいは炎症反応を誘起するという仮説と逆の結果が得られた。これらの結果から、羊膜そのものの癒着防止作用はないと判断し、癒着防止にはやはり中皮細胞が必要であると考えられた。上記結果をふまえ、現在は羊膜の絨毛側に中皮細胞を播種することで、胸膜癒着防止作用のある医用材料を開発している。