研究実績の概要 |
悪性胸膜中皮腫の多くは、アスベスト暴露に起因して発症する。患者さんの多くは中皮腫が進行した状態で見つかり、治療には外科療法、化学療法が用いられる。しかし、その治療効果は限定的であり、十分に改善されたとは言えない。MPM患者では、分子標的薬の直接的な標的となるがん遺伝子変異の頻度は極めて少なく、がん抑制遺伝子である細胞周期制御遺伝子p16 INK4a で80%,神経線維腫症2型遺伝子NF2 で60%, BAP1で30-40%の不活化変異が高頻度に検出されているがこれらの遺伝子の中皮腫発症における役割は不明である。申請者は、正常中皮細胞 (MeT-5A, HMOC)に対してゲノム編集を行い、NF2、p16 INK4a、 (NF2-/-,p16 INK4a-/-) 二重欠失細胞 (DKO)を樹立した。2020年度申請者はDKOが正常細胞に比べて細胞より成長速度や 細胞形質転換が観察した。cDNAマイクロアレイにより遺伝子発現様式を解析し, DKOがCD24遺伝子の高発現を誘導することを見出し、CD24が上皮間葉転換(EMT)に関与していることやEMT表現型のさらなる実験的証拠を得るために、デスモソームの一つであるデスモプラキンの発現を調べ、免疫蛍光分析を行った。DKO細胞や中皮腫細胞株では、正常中皮細胞に比べてデスモプラキンの発現が低下していることを明らかにしてcell death discoveryの雑誌に学術論文として発表した。さらに、申請者はヒト胸膜中皮細胞と最新ゲノム編集システムを利用してBAP1 破壊株を作製し、その株ではCAMKD2が高発現していることを見だした。さらに、BAP1 破壊株またはNF2/p16 二重破壊株に対し化合物ライブラリーを用いた薬剤感受性試験を行い、BAP1破壊株にはKN-93阻害薬、二重破壊株には阻害薬xが良く効くことを発見した。
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