研究課題/領域番号 |
19K09297
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
吉川 聡明 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 研究員 (00625957)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | TIL / 個別化 / T細胞移入療法 / 自己腫瘍反応性 / ネオアンチゲン / 疲弊化解除 |
研究実績の概要 |
本研究は、TILから自己腫瘍反応性を持つT細胞を濃縮し、若返らせることで増殖能・長期生存能を亢進させ、持続的な抗腫瘍効果を高めた新たな個別化T細胞移入療法の開発を目的として行っている。肺がんの手術切除組織を使用して、細胞傷害性顆粒の放出を示すCD107aや免疫チェックポイント分子であるPD-1などをマーカーとして、腫瘍内に浸潤している様々な抗原を認識したT細胞(TIL)の中から自己の腫瘍細胞を認識しているTILを単離して、濃縮し増殖させた。興味深いことに、PD-1陽性TILのうちCD107a陰性分画はほぼ全ての患者で増殖させることができたのに対し、CD107a陽性分画は一部の患者でしか増殖させることができなかった。これは、自己腫瘍反応性TILは、腫瘍内でその増殖能が顕著に低下している可能性を示唆している。単離し増殖させた自己腫瘍反応性TILを若返らせる目的で、OP9-DLL1との共培養、または、ウィルスベクターによるNotch受容体の転写活性ドメインやNotch標的因子の強制発現により、自己腫瘍応答性TILの誘導性ステムセルメモリーT細胞(iTscm)への誘導試みた。しかしながら、TILの増殖能が低下していることからiTscm誘導は困難であった。今後はTILの疲弊化解除に対しては新たな方法も検討するとともに、単離した自己腫瘍反応性TILのTCR遺伝子全長配列をシングルセル解析により同定し、TCR遺伝子導入した細胞に増殖能・長期生存能を持たせることにも取り組むことで、従来よりも効果的な細胞療法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺がんの手術切除検体を順調に集積し、フローサイトメーターで細胞傷害性顆粒の放出を示すCD107aや免疫チェックポイント分子であるPD-1などをマーカーとして、腫瘍内に浸潤している様々な抗原を認識したT細胞(TIL)の中から自己の腫瘍細胞を認識しているTILを単離して、濃縮し増殖させることができている。また、TILの標的細胞として使用するために自己腫瘍細胞を維持することも必要であり、免疫不全マウスに腫瘍組織片を移植しPatient derived xenograft (PDX)の作製も行っている。組織のDNA, RNAを抽出し、次世代シーケンサーを使用し、がん部と非がん部の比較により遺伝子変異由来抗原を同定している。候補となる抗原のロングペプチドをコードするmRNAを作製し自己の線維芽細胞に導入し抗原提示させ、TILとの反応性により抗原を同定すること現在を進めている。単離し増殖させた自己腫瘍反応性TILを若返らせる目的で、OP9-DLL1との共培養により、自己腫瘍応答性TILの誘導性ステムセルメモリーT細胞(iTscm)への誘導を試みたがiTscm誘導は困難であった。従来の方法は末梢血活性化T細胞を使用して最適化された方法であったが、TILは腫瘍内で疲弊化しているため十分な細胞増殖出来ず、iTscm化が進行しないと考えられる。またNotch受容体の転写活性ドメインやNotchの標的因子のcDNAをレトロウイルスを用いてTILに導入する方法も検討したが、TILは遺伝子導入効率も極めて低く遺伝子導入自体が困難であった。 TILは終末分化した細胞であるため、細胞増殖能力、細胞生存率が低く、またエピジェネティックに遺伝子発現が固定化されているため、iTscmへの転換が困難であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、自己腫瘍細胞を維持するために免疫不全マウスに腫瘍片を移植したPDXを作製しているが、樹立できる確率は15%程とそれほど高くなく、一部の症例でしかTILの自己腫瘍反応性を確認できていないため、今後はCTOS法など他の方法も試みることで、自己腫瘍細胞株の樹立を増やしていく。 TILの疲弊化解除に対しては、増殖能が低下しているTILに対しても変化を起こすために、TILで最適化した新たな方法も検討していく。TILにNotchシグナルの刺激を入れることや遺伝子導入をするためには、ある程度増殖能を持たせる必要があることと、増殖能を持たせる過程で一部のTILに絞られてしまうことが課題である。そのため、自己腫瘍反応性TILとして単離した様々な抗原を認識しているTILのレパートリーをできる限り維持しつつ疲弊化解除するための工夫も行っていく。 また、自己腫瘍を認識できるTILをソートし、10xGenomicsを使用して、1細胞単位でTCRのα鎖、β鎖の遺伝子配列を決定し、他の細胞に遺伝子導入してTCRを発現させることも進めていく。TILのTCR遺伝子導入細胞を作製する場合には、TILそのものではなく末梢血リンパ球を使用するため、これまでのOP9-DLL1との共培養による方法でiTscmを誘導し疲弊化解除ことも可能と思われる。しかし、TCR遺伝子の全長配列とα鎖β鎖のペアをシングルセル解析で効率よく決定するためには、現時点ではTILを刺激培養することが必要であり、こちらも様々な抗原を認識しているTILのレパートリーをできる限り維持するための工夫も行っていく。これらの研究を通して、患者個々の様々ながん抗原を認識した複数のTCR遺伝子を導入し、さらに細胞に増殖能・長期生存能を持たせることで、従来よりも効果的な細胞療法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、患者検体集積が中心となったため、解析に使用する物品費が少なめになった。次年度は、これまで集積した検体の解析を中心に行うことや、患者個々のネオアンチゲン同定、TCR遺伝子導入細胞の作製に使用する計画である。
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