研究実績の概要 |
iPS細胞から様々な臓器を作り出そうという試みは多い。肺に関しても、胎児期の肺に近い性質を持つ肺様体(lung organoid)を、iPS細胞を内胚葉に分化誘導したものから作り出したという報告がある。また脱細胞化した肺の構造体に、iPS細胞から肺上皮に分化誘導した細胞集団を移植する試みも行われている。しかし未だ機能する肺を作れたという報告はない。 実はこれらの研究には、臓器構築には内胚葉由来の上皮細胞だけでなく、中胚葉由来の組織(間充織)も必要であるという観点が欠落している。正常な肺の発生過程では、上皮細胞層と間充織が相互作用することで、細胞の分化と組織の形態形成を進めている。ところがiPS細胞を内胚葉に分化誘導したものから得られたorganoidには、中胚葉の性質を持つ細胞はわずかしか含まれていない事が報告されている。 そこでまず、市販の分化誘導培地を用い、iPS細胞から中胚葉へと分化誘導した細胞(間充織前駆細胞)を得た。これとは別に《Dye, B.R. et al. eLife 4, e05098 (2015) 》や《Chen, Y.-W. et al. Nature Cell Biology 19, 542-549 (2017)》の方法を参考にして作られたと考えられる市販の誘導培地を用いて、同じiPS細胞から内胚葉を誘導し、さらに未熟な段階のorganoidまで分化させた。続いて、間充織前駆細胞をMatrigel中に分散させ、内胚葉由来のorganoidをその中に包埋することで共培養を行い、lung orgaoidの作製を試みた。その結果、内胚葉由来organoidを単独でMatrigelに包埋した場合と比較して、lung organoidの形態形成が促進されるという結果を得た。今後はより効率良く形態形成を進められる条件を検討していきたい。
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