本研究では、肺扁平上皮癌(LUSC)を中心とした非小細胞肺癌の悪性度におけるmaspinの細胞内局在依存的な機能を解明するために、以下の検討を行った。① Maspin非発現株 (RERF-LC-AI)、および低発現株 (LK-2)を用いて安定発現株を樹立した結果、LK-2-maspinでは核と細胞質 (panMaspin)、RERF-LC-AI-maspinでは細胞質 (cytMaspin)に局在を示し、一部のLUSC株ではmaspin細胞内局在の制御機構破綻が生じていることが示唆された。② 樹立細胞株における細胞浸潤アッセイでは、panMaspinの局在を示すLK-2-maspinでは細胞浸潤能が抑制されたのに対して、cytMaspinの局在を示すRERF-LC-AI-maspinでは、細胞浸潤能の亢進が認められた。これらの結果から、Maspinは細胞内局在に依存して、癌に抑制的にも促進的にも機能することが示唆された。③ cytMaspinによる細胞浸潤能促進の分子メカニズムを明らかにするために、遺伝子発現プロファイルを解析した結果、cytMaspinの過剰発現によって細胞間接着に関連する複数の遺伝子が減少していることが明らかとなった。さらに、PYK2、SRCキナーゼに着目してその活性化を検討したところ、これらのリン酸化が増加しており、cytMaspinによる浸潤能亢進にPYK2、SRCキナーゼの活性化が関与していることが示唆された。④ LUSC株と同様に、肺腺癌 (LUAD)株でもpanMaspinは細胞浸潤を抑制する一方、cytMaspinは細胞浸潤能を促進することを明らかにした。さらに、細胞浸潤の抑制時に間葉系マーカーのN-cadherin発現が有意に低下していたことから、panMaspinによる細胞浸潤能抑制には間葉系形質の獲得阻害が関与していることが示唆された。
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