研究課題
肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになったが、課題も多い。なかでもICIの効果が限定的であることは知られるようになり、併用用法による効果の増強が注目されている。薬物療法や放射線療法との併用療法が開発され一定の効果を挙げているものの副作用の問題もあり、さらなる改善の余地がある。我々は腫瘍抗原特異的T細胞療法との併用に着目し検討を進めており、本研究では本治療法の理論的根拠の確立と、臨床応用を目指した検討を行う予定である。我々が以前から注目しているのはCD39陽性/CD8陽性のT細胞である。本細胞群には腫瘍抗原特異的T細胞の割合が多いことが指摘されている。本研究では本細胞を用いた新たな細胞療法の可能性を検討するものである。先行研究では腫瘍局所にはPD-1やLAG3といった疲弊マーカーを多く発現するT細胞が多く存在していることを明らかにしており、さらに今年度は腫瘍局所のCD39陽性細胞の割合や局在についてまず検討を行った。CD39陽性細胞はCD4、CD8ともに腫瘍局所に多く存在していることが明らかとなった。また、腫瘍局所の免疫組織学的解析によって、一定の症例の腫瘍内にTertiary Lymphoid Structure(TLS)の存在が明らかとなったため、さらに検討を行ったところTLS内に存在するHigh Endothelial Venule のLigandであるCD62Lを発現するT細胞について検討を行ったところ、CD62L陰性となった抗原刺激を受けた活性化T細胞の割合が多く認められることを明らかにした。加えて、先のCD39陽性/CD62L陰性T細胞(抗原刺激を受けた腫瘍特異的T細胞と考えられる)が末梢血中と比較して腫瘍局所に多く存在することを明らかにした。今年度に行った解析により本細胞を用いた細胞治療の理論的根拠が確立されるに至った。
2: おおむね順調に進展している
今年度は腫瘍局所のT細胞の分布と質的解析を行い、先述のとおりCD39陽性/CD62L陰性T細胞(抗原刺激を受けた腫瘍特異的T細胞と考えられる)が腫瘍局所に多く存在していることを明らかにした。この結果から当初計画したCD39陽性T細胞を用いた細胞治療の理論的根拠を一定程度確認できた。また、腫瘍細胞の遺伝子解析を並行して進めTumor Mutation Burden (TMB)の多寡と免疫学的なパラメータとの解析を行ったところ、腫瘍のPD-L1の発現や、腫瘍浸潤リンパ球の多寡とは関連せず独立した因子であることが確認され、報告した。現在ICI治療におけるバイオマーカーとして実臨床で用いられている因子はPD-L1の発現のみであるが、上記の我々の解析結果はPD-L1に加えてTMBを解析することの意義を明らかにしたものであり、さらにTMBに由来するいわゆるNeo抗原を標的とした治療の意義を再確認するものと考えられた。今年度に得られた以上の結果を踏まえて、当初標的としたCD39陽性T細胞のみならず、CD39陽性/CD62L陰性T細胞がよりenrichされた腫瘍特異的T細胞と考えられることから、本細胞群に着目した検討を進めることとした。なお、今年度は上記研究と平行し、新たな取組みとしてin vitroでICIの効果を予測するシステムを開発開始した。本システムは症例個々に腫瘍細胞と宿主免疫細胞を共培養しICIを付加したうえで、抗腫瘍活性を確認するものである。今後はこのシステムも用いて腫瘍局所に多く存在するCD39陽性/CD62L陰性T細胞の抗腫瘍活性を確認していく。
先述したとおり、我々は最近個々の非小細胞肺癌患者の手術検体から腫瘍細胞とTILを採取し、ICIと共培養するシステムを確立した。このTIL共培養システム(TIL-ICI Co-culture System: TICS)を用いることで、各種バイオマーカーの有用性について、より実臨床に近い視点で解析が可能となった。さらに、本研究で取り組む、CD39陽性T細胞を用いた細胞治療の有用性の確認を容易にするものと考えている。今後は、上記TICSを用いて、TIL中の各種細胞サブセットの中で、どの細胞群がKeyとなる細胞群なのかを明らかにすることが可能と考えており、我々が着目した、CD39陽性/CD62L陰性T細胞群がどのようにICIの効果に関わるのかを明らかにしたい考えている。そのうえで、別途行っているTMBに基づくNeo抗原の解析結果と融合させることで、当初計画した腫瘍特異的T細胞療法の基礎を構築できるものと考えている。また、教室ではICIの治療後の切除検体の解析も進めており、先述したTLSがICIの投与によって誘導されている可能性を確認しているところであり、腫瘍局所でのTLSの形成が抗腫瘍活性を発揮するうえで重要な因子となるのではないかと推定している。これらの仮説に基づき、腫瘍局所でのTLSの形成とCD39陽性/CD62L陰性T細胞群の誘導との関連性についても明らかにしたいと考えている。この点については、CyTOF解析という網羅的な細胞解析手法も導入予定であり、次年度以降検討を進めていく予定である。
まとめての購入や業者のキャンペーン等を利用するなど、効率のよい執行に努めたことにより、わずかに残金が生じた。残金が生じても年度内に無理に執行せず、次年度の研究のさらなる充実のために活用する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 1件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
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