研究課題/領域番号 |
19K09310
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 弘行 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (30322340)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | がん免疫 / 細胞治療 / Neo-antigen |
研究実績の概要 |
肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになったが、課題も多い。なかでもICIの効果が限定的であることは知られるようになり、併用療法による効果の増強が注目されている。薬物療法や放射線療法との併用療法が開発され一定の効果を挙げているものの副作用の問題もあり、さらなる改善の余地がある。我々は腫瘍抗原特異的T細胞療法との併用に着目し検討を進めており、本研究では本治療法の理論的根拠の確立と、臨床応用を目指した検討を行っている。これまでの解析でCD39陽性細胞はCD4、CD8ともに腫瘍局所に多く存在していることが明らかとなった。また、腫瘍局所の免疫組織学的解析によって、一定の症例の腫瘍内に通常のリンパ節装置で確認されるHigh Endothelial Venule(HEV)を内包するTertiary Lymphoid Structure(TLS)の存在が明らかとなった。HEVのリガンドである、CD62Lが陰性化した(=抗原刺激を受け活性化した)T細胞の存在が腫瘍内に確認され、さらにはCD39陽性/CD62L陰性T細胞(腫瘍特異的リンパ球と考えられる)は末梢血中と比較して腫瘍局所に多く存在することを明らかにしている。さらに、TLSの存在が肺癌術後の予後に関連することを明らかにした。また、腫瘍局所のTLSの存在が末梢血のリンパ球分画に影響を与えるか否かの解析も開始しており、マスサイトメトリー解析により末梢血中のCD9陽性細胞およびHLA-DR陽性細胞の減少が腫瘍局所のTLSの存在と強く関連することを明らかにしている。今年度に行った解析により本細胞を用いた細胞治療の理論的根拠がより明確になったものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先述したようにCD39陽性/CD62L陰性T細胞が腫瘍局所に多く存在していることを明らかにした。この結果をふまえ腫瘍の微小環境をより詳細に解析したところ、腫瘍の局所にTertiary Lymphoid Structure(TLS)と呼ばれるリンパ節様構造の存在を明らかにした。TLSは肺癌のみならず他癌腫でもその存在が報告されているが、その機能については十分解明されてはいない。我々はTLS内に存在するHigh Endothelial Venule (HEV)を確認しているが、HEVに親和性を示すリガンドとしてCD62Lが知られており、CD62L陽性T細胞(=ナイーブT細胞)がリクルートされる経路であることが示された。またCD62Lは成熟化によって陰性化するため、CD62L陰性T細胞は抗原刺激を受けた成熟化T細胞であり、我々が提唱してきたCD39陽性/CD62L陰性T細胞は腫瘍特異的なT細胞であることを強く裏付けるものである。この結果から当初計画したCD39陽性T細胞を用いた細胞治療の理論的根拠が強固なものとなった。なお、今年度は上記研究と平行し、前年からの新たな取組みとして行ってきたin vitroでのICIの効果を予測するシステムをさらに充実させ臨床データとの突き合わせを行っている。本システムは症例個々に腫瘍細胞と宿主免疫細胞を共培養しICIを付加したうえで、抗腫瘍活性を確認するものである。今年度は当該施設の動物実験室の改修工事や震災による被害が重なって十分な解析を行うことが出来なかったため、これらのin vitro解析に重点を置いた。さらには腫瘍の微小環境の解析をさらに進め、TLSの存在に関連する末梢血のキャラクターの解析を行っており、特徴的な細胞集団の変化が関連することを初めて明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
先述したとおり、我々は最近個々の非小細胞肺癌患者の手術検体から腫瘍細胞とTILを採取し、ICIと共培養するシステムを確立した。このTIL共培養システム(TIL-ICI Co-culture System: TICS)を用いることで、各種バイオマーカーの有用性について、より実臨床に近い視点で解析が可能となった。さらに、本研究で取り組む、CD39陽性T細胞を用いた細胞治療の有用性の確認を容易にするものと考えている。また今年度に新たに開始した腫瘍の微小環境の解析とCyTOF解析によって得られた結果を踏まえ、CD9/HLA-DR陽性細胞の挙動と機能についても解析を行うこととしたい。これらの細胞群についてもTICSの解析に供することで新たな細胞群を標的とした細胞治療の可能性を探ることとする。加えて今年度はTLSの誘導についても何らかの知見を得たいと考えている。現時点ではリンフォトキシンなどのサイトカインと抗VEGF阻害による手法を念頭においているが、これらの方法によってTLSと細胞療法を併用した全く新たな治療法の開発に向けた新たな試みを開始したいと考えている。上述した新たな細胞集団の機能解析やTLSの解析は新規治療法の開発のみならず腫瘍免疫における新たな知見を提供することに繋がるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率のよい執行に努めたことにより、わずかに残金が生じた。 残金は、次年度の研究の充実のために有効に活用する。
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