研究実績の概要 |
肺癌の中で微小乳頭型肺腺癌(micropapillary adenocarcinoma, MPA)はリンパ節転移を起こし易く予後不良であるが, その原因はいまだ不明である. 申請者らが樹立したMPA細胞株(KU-Lu-MPPt3, 以下MPPt3)は, 付着する (Adherent, AD) 細胞と浮遊する(Suspension, SUS)細胞が混存し, お互いの形態へ変化可能な稀有な細胞株である. 特に腺癌細胞でありながら浮遊の培養形態をとるSUS細胞は腫瘍組織の微小乳頭成分と形態的な類似点が多く, 培養細胞の形態特異性も高いことから, SUS細胞がMPAの予後不良因子と関連性があると仮定し, 次のように解析を進めた.
AD細胞とSUS細胞をそれぞれ分離培養し, 発現遺伝子の比較解析を行ったところ, AD細胞で接着に関わる限局性接着キナーゼ(focal adhesion kinase, FAK)の高発現と, SUS細胞で代謝や増殖に関わるAktの高発現を認めた. さらに, 浮遊していたSUS細胞が付着する際, FAKのリン酸化亢進とAktのリン酸化低下を認め, 培養皿に接地する細胞に葉状仮足突起の形成が観察され, 同時に突起の先端にFAKリン酸化の蓄積を認めた. また, SUS細胞にAkt阻害薬を投与すると, Aktのリン酸化低下のみならずFAKのリン酸化亢進を認めた. その一方で, FAK阻害薬を投与するとFAKとAktのリン酸化低下を認めた. さらに, SUS細胞にAkt阻害薬またはFAK阻害薬を投与することで細胞の接着と増殖が有意に抑制され, また, Akt阻害薬によってリン酸化FAKの蓄積を伴う葉状仮足突起の形成が抑制された. これはSUS細胞の接着にFAKとAktの活性が関与していることを示唆し, これらの阻害薬がMPAにおける新たな治療戦略となる可能性がある.
|